あの子と私
「ただいま」


家に帰るとパートに行っているはずの母親の、靴が目に入る。


「お母さん?帰ってる…?」


私はそう呟いてリビングに向かい、ドアを開けると母親がソファーに座っていて、不機嫌そうに言った。


「ああ、アリス。お帰りなさい。お父さんから電話があってね、出張に行くって言ってたから出張の準備をしに帰って来たのよ」

「出張?」

「いつもの事だけど、急に言うから困っちゃうわ。もうすぐ帰って来るみたいだけど……」

「……私、勉強するから」

「そうね」


私は部屋に戻り服に着替えると、いつものように勉強を始める。

雑音も何もかも聞こえなくなるくらい集中する。

でも聞きたくない事は、耳を塞いでいても聞こえて来るんだ。
玄関を開く音と声が聞こえて来た。


「お帰りなさい。もう行くの?」

「ああ。得意先からすぐ来るように言われたんだ」

「毎月毎月…?」

「…何が言いたいんだ?俺の仕事の足を、妻のお前が引っ張ってどうする?」


聞きたくない


聞きたくない……。


「……ごめんなさい。いつ帰って来るの?明日?明後日?」

「…明日帰るよ」

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