あの子と私
呆然として教室に戻ると、すぐにトモが寄って来て言った。


「ヨシは?」

「…帰った」


朋は顔を曇らせ、切なそうな顔をして私に言う。


「行くぞ」

「…え?」

「ヨシんち。途中まで一緒に行ってやるから」

「でも…授業が始ま」


私がそう言い掛けると、トモは私の机から荷物を取って来て、私の腕を引っ張る。

クラスの子達が見ている中に真雪の姿があるのを確認したけど、私はそれに気付かない振りをして、トモの後を歩く。

そして学校を出ようとした時、トモが言った。


「雨…降ってるな。どうする?」


私は空を見上げる。

この雨の中、傘も挿さないで帰って行ったヨシの姿を思い浮かべた。


「…大丈夫」

「濡れるぞ?」


私は頷いて駅に向かって歩き出す。

トモはそれ以上何も言わないで、私の隣を歩く。

ポツリポツリ、冬の雨が冷たい。

駅に向かう間も、電車に乗っている間も、私もトモも無口で

ヨシの家の近く迄着くと、私の腕を掴んでトモが言った。


「頑張れよ」


私はその言葉を聞いてドキンとした。


頑張る…?


「今がチャンスだ」


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