あの子と私
荷物を鞄に入れると席を立つ。

トモを真雪が一緒に居るのに気付かない振りをして、教室を出ようとする。


「アリスちゃん、一緒に帰らない?」


笑顔で言う真雪に、私も笑顔で言った。


「ごめんね、真雪ちゃん。ヨシの体調が悪いみたいだから、お見舞いに行くの」


ヨシに想われて、トモと付き合ってる真雪に幸せそうな笑顔を作ると、余計自分が惨めに思える。


でもこれでいい。


母親みたいになるくらいなら、これでいいんだ。


「そっかぁ。ヨシに宜しくね」

「うん」


私は笑顔で頷くと、急いで教室を出る。

そしてヨシの家に向かいながら、色々思い浮かべる。

家に行ったら、ヨシはどんな顔をするだろう?

勉強があるから帰れって言う?


駅の中にあるケーキ屋さんのケーキを買うと、手が少し震えている事に気付いた。

寒いからじゃない。

ヨシの家に近付く度、心臓がバクバク鳴る。

トキメキとか暖かい感じではなく、ヨシが真雪に告白をした時のような……。

ヨシの家に着くと暫く動けなくなって、やっとの思いでインターホンを押すと、ヨシの母親の声が聞こえた。


「はーい」

「……川野です」


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