あの子と私
母親は私の声にハッとした顔をしてぎこちなく言う。


「あ、あら帰ってたの…?」


やっぱりお母さん、何かいつもと違う…。


「…うん。真雪ちゃんはバイトを始めたんだって」

「…そう。ご飯の支度をするから、アリスは勉強でもしてなさい…」

「……」


母親は私から目を反らすと急ぐように台所へと向かう。

お母さん……?

私は少しだけその場に立ち竦むと、部屋に戻りシャーペンを握りしめる。


何がいけないんだろう?

勉強の事で口煩く言われる事はあったけど、こんな事は今迄無かったのに。

今迄経験して事の無い、ぎこちない母親の態度にどう対応すれば良いのか分からない。

勉強をすればいい?

又良い点数を取れば、お母さんはいつもと変わらないお母さんになる?

お母さんが喜ぶ事なんて、テストで良い点数を取る以外分からないんだ。

私は時間を忘れるくらい必死に勉強をする。

そして暫くすると部屋の外から母親の声が聞こえた。


「アリス、ご飯よ」

「…うん」


私は手を止めると食卓に向かう。


食卓に行くと、いつの間にか帰っていた真雪の姿と、テーブルの上には三人分の料理とケーキが並んでいた。


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