あの子と私
部屋に戻ると今日万引きした参考書を取り出し、抱きしめる。


大丈夫。

私は頭がいい。

だから、いつも良い点数が取れるし、私のことでお父さんもお母さんも喧嘩なんてしない。


気持ちを落ち着かせると机に向かい、問題集を解き始める。

頑張ろう。

頑張らなきゃ……。


―翌日

朝起きて顔を洗うと三つ編みを作り、眼鏡を掛けて食卓に向かう。


「おはよう、アリス」

「おはよう」

食卓には父親の姿は無く、私は母親に聞く。


「お父さんは?」

「仕事に行ったわ。アリスも早くご飯を食べて学校に行きなさい」

「…うん」


私は急いでご飯を食べ、歯を磨いて制服に着替えると、家を出て学校に向かう。

駅までの道ですれ違う人も、同じ電車に揺られる人達も、昨日私が万引きをしたことなんて誰も知らない。

そして学校に着くと教室には誰もいなくて、コツンと机の上に鞄を置くと、椅子に座り教科書を出す。
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