あの子と私
「じゃあ、私…勉強するね」



私がそう言うと母親は少し黙ってから言った。


「…そうね。お父さん、いつ帰って来るか分からないものね」

「……」


私はコクリと頷き、部屋へと戻る。

そして又勉強を始める。


母親は食卓で父親の帰りを待っているのか、家の中が静かだ。


時計の針の音だけがカチカチ聞こえる。

勉強をしながらも、父親の帰りが気になって仕方ない。

そして少し眠くなった頃、車の音が聞こえ、少しすると玄関が開く音が聞こえた。

私は足音が聞こえないように歩き、ドアをソッと開けて耳を澄ます。


「お帰りなさい…」

「…あぁ」


重苦しい空気がこっち迄伝わって来て、息が少し苦しくなった。


「どうしたの…?」

「明日…明日出張だから今日は早く寝るよ」


父親が重い声でそう言うと、母親は怒鳴るように言った。


「出張?本当に出張なの?!何処に誰と出張なの?!」


その声に胸がドキンとして、鼓動が速くなる。

又…前みたいになるの?


「疲れてるんだ。出張くらいで大声を出さないでくれよ…」

「貴方っ…!」


やっぱりこれ以上

聞きたくない…!


私はドアを思い切り閉めると、ベッドの上に転がり、頭の上から布団を被って猫の様に丸まる。

そして速くなった呼吸を必死に落ち着かせた


呼吸が落ち着いて来ると、起き上がり大きく深呼吸をする。


もう声は聞こえてこない……?

喧嘩はもう終わったの…?


大丈夫


明日になれば、お父さんが出張から帰って来て、又昨日みたいに戻ってる。


たまにはこんな日だってあるんだ。

それが今日だっただけだから……。

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