追放された調香師の私、ワケあって冷徹な次期魔導士団長のもとで毎日楽しく美味しく働いています。
64.精霊の怒り
「カルディナーレ香水工房は二日ほど前から臨時休業になっている。競技会に出られるのかわからない状況だ」
「えっ……臨時休業?」
フレイヤはネストレに聞き返してしまい、慌てて口を噤んだ。いくら驚いたとはいえ、平民の自分が王族の許可なく話すわけにはいかない。
そんなフレイヤに、ネストレは柔らかく微笑む。
「畏まらなくていいよ。俺はここにお忍びで来ているのだから、シルの知り合いだと思って気軽に接してくれたらいい」
「お、お心遣い感謝いたします……」
本人から許可が下りたが、王族に対してそう簡単に気軽に接することができるだろうか。いや、できない。
あまりにも畏れ多い配慮に、フレイヤは曖昧に笑みを浮かべるしかなかった。
「原因はセニーゼ商会にあるようだ。このところ、セニーゼ商会の商品を運んでいる馬車がことごとく強風被害に遭ったらしい。それで納品の遅延が増えていてね。セニーゼ商会からの仕入れを頼りにしていたカルディナーレ香水工房は香水の材料がままならないから休業を余儀なくされたところだ」
セニーゼ商会は平民の豪家セニーゼ家が保有する商会で、王国随一の影響力を誇る。
カルディナーレ香水工房の工房長のアデラルドの妻の実家でもある。そのためカルディナーレ香水工房は材料から瓶まで全てそこから仕入れている。
「いくつかの災害発生現場に妖精の姿が視れる者がいてね。彼らは口を揃えて風の精霊のシルフを見たと言っていた。どうやらかなりご立腹だったそうだ。その噂も相まって、今はセニーゼ商会からの購入を控える貴族家が出始めている。精霊の怒りを買ったとなれば、しばらく商売にならないだろう。誰だってそのような者に関わって火の粉にかかりたくないからね」
妖精もさることながら、精霊のような超越した存在に目をつけられているということは、それなりに大きな罪を犯したのではないか。
その憶測が人々の間で芽吹き、大きく膨らんでいる。
もしも精霊の怒りを買ったのであれば、彼らと関わっている自分たちも悪事に加担したと思われてはならない。
これまでセニーゼ家頼りにしていた人々は、手のひらを返して彼らとの関わりを断とうとしている。
「カルディナーレ香水工房はどうにか出品する香水を作る事ができても、生産する材料がないと判断されると受賞取り消しとなるだろうね。そうすれば工房の信頼が落ちる。どのみち不名誉な結末となるだろう」
「……なるほど、風の精霊のシルフの仕業ですか……」
シルヴェリオは神妙な顔で呟く。思い出すのは、つい昨日シルフと交わした会話だ。
シルフはハルモニアから、フレイヤを泣かせた者たちに仕返しをしたと言っていた。
フレイヤを泣かせた者たちとは、カルディナーレ香水工房の工房長のアベラルドと、彼と一緒に他の香水工房に圧力をかけてフレイヤを雇わないよう牽制していたセニーゼ商会の面々に違いない。
「シル、なにか思い当たることがあるのか?」
「実は昨日、そのシルフに会いました。彼女はハルモニアという半人半馬族に頼まれてフレイさんを泣かせた者たちに仕返しをしていると言っていたんです」
「えっ、ハルモニアが?」
フレイヤは急に出て来た友人の名に驚いた。
半人半馬族はハーブや薬草や珍しい植物を採集しては人間の商人たちと取引をしている。
ハルモニアは取引している商人や、フレイヤの姉たちから話を聞いて、カルディナーレ香水工房とセニーゼ商会との関係性に気づいて襲撃をしかけたのかもしれない。
となれば昨日シルフと出会った時はちょうど、シルフがセニーゼ商会の馬車を襲撃した帰りだったのだろう。
「シルフに目をつけられてしまったとなると、……これから商会の勢力図が変わりそうですね」
「社交界も変わるだろう。これまでセニーゼ家は平民ではあるものの貴族同然の振舞をしていたからな。彼らの座っていた椅子の取り合いが始まりそうだ」
野心家なセニーゼ家の当主は娘たちを貴族に嫁がせて繋がりを作っては政治に介入してきた。
今では貴族のパーティーにも堂々と出席するほどの力をつけているのだ。
自身の利益のために政治を動かそうとするセニーゼ家の当主を疎ましく思う貴族家は多い。その筆頭はエイレーネ王国では王族の次に権力があると言われているイェレアス侯爵家だ。
まだ水面下ではあるが、両社は対立ばかりしている。
ネストレはニヤリと意地悪く唇を持ち上げた。
「このところ、引退したはずのお爺様が張り切って出陣の準備をしているそうだ。今にセニーゼ家を完膚なきまで打ちのめすだろうな」
母親――王妃はイェレアス侯爵家出身のため、ネストレもまたセニーゼ家を良く思っていないらしい。彼らの窮地を楽しんでいるように見える。
「カルディナーレ香水工房の出場が危ぶまれている今、社交界ではコルティノーヴィス香水工房の一強だと言われているよ。まあ、俺はカルディナーレ香水工房が今回のような窮地に陥らずともルアルディ殿には敵わないと思っているのだけど」
ネストレも王妃と同じくフレイヤ贔屓だ。フレイヤが優勝すると信じて疑わない。
フレイヤはネストレからの称賛の言葉にただただ恐縮した。
「そう言えば、シルはコルティノーヴィス伯爵からセニーゼ商会についてなにか聞いていないか?」
「実はちょうど昨夜、姉上からその話を聞きました。セニーゼ紹介の上層部から連絡があり、香料を一部融通して欲しいと頼まれたそうです」
「なるほど、八方ふさがりだから商売仇に縋ることにしたのか。それで、コルティノーヴィス伯爵はどうした?」
「丁重に断ったそうです。他の香水工房からもセニーゼ商会からの納品が遅れているから助けてほしいと連絡があって、買い占められてしまった。だから少しも余力がないと言ったそうです。それに、フレイさんの香水が受賞して生産する時のために材料を残していたいから断ったとも言っていました」
「さすがはコルティノーヴィス伯爵、いい判断だ」
シルヴェリオもネストレもセニーゼ家に同情していない。今まで彼らがしてきたことを思えば当然の報いだとさえ思っている。
しかしフレイヤはどこか気落ちしており、黙って二人の話を聞いていた。
「もしカルディナーレ香水工房が競技会に出場できなかった場合は、どうなるのでしょうか?」
「香水工房としての信頼を失うことになるから、事業を続けていけなくなるだろうな。特に工房長のアベラルド・カルディナーレは調香師としての地位を失うことになるはずだ」
「調香師としての地位を失う……」
フレイヤはネストレの言葉をオウム返しすると、表情を硬くした。
「あの……、競技会の日程を遅らせることはできないでしょうか?」
「遅らせる? どうして?」
ネストレの問いに、フレイヤはやや視線を彷徨わせる。
「シルフに頼んで、馬車を襲うのを止めてもらうつもりです。それから再び材料を集めた時に間に合う日程にするのはいかがでしょうか?」
「本気で言っているのかい? 奴らは君を調香師の世界から追放しようとしていた連中だぞ?」
「そうです。カルディナーレ氏によって私はもう調香師になれないかもしれないという苦しみを味わいました。その苦しさを知っているからこそ、他人に同じ苦しみを味わわせたくないんです」
フレイヤは若草色の目で真っ直ぐネストレを見つめた。
「このまま見て見ぬふりをしていたら、彼と同じ罪を背負うことになってしまう気がするんです。私はそうなりたくありません。もしもそのようなことになれば、調香している時に迷いが生まれてしまいそうな気がするんです」
「……なるほど、お人好しな考えだが――ひたむきに己の仕事に向き合うその姿勢と敵にも誠意をもって向き合うその心意気、嫌いではない」
ネストレはフレイヤの右手を手に取ると、その甲にそっと唇を触れさせる。
「~~っ!」
突然のことに驚いたフレイヤは、声にならない悲鳴を上げた。
条件反射で後退ったが、その手はネストレにがっちりと掴まれており逃げられなかった。
慌てふためくフレイヤに、ネストレは貴族令嬢たちが見たら黄色い声を上げそうなほど甘い微笑みを作る。
「提案がひとつある。俺にかけられた呪いを解いてくれた礼として、その願いを叶えられるかもしれない。君を陥れようとした者たちのために使ってもいいのかい?」
「も、もちろんです! よろしくお願いいたします!」
「ええ……本当に承諾してしまうとは……心配になってしまうほどお人好しだね。テレンツィオが言っていた通り、あの人にそっくりだ」
ネストレは小さく呟くと肩を竦めた。
つい最近、快気祝いに来てくれた従兄で司祭のテレンツィオ・イェレアスから聞いた話によると、フレイヤ・ルアルディという名の調香師は彼らの祖父――先代侯爵の弟にあたる人物とよく似ているらしい。
ふと、突き刺さるような視線を感じたネストレは、その視線の元――シルヴェリオに顔を向ける。シルヴェリオの深い青色の目が、いつになく剣呑な気配を纏っているではないか。
「シル、どうかした?」
「……なんでもありません」
「不機嫌そうな声で言われても、説得力がないんだけどなぁ」
やや口を尖らせつつ、フレイヤの手をそっと離す。
どうやら彼女がシルヴェリオの逆鱗になりつつあるということも、従兄から聞いていた。
「これから忙しくなりそうだな」
「ええ、きっと今以上に香水の注文が入ってきそうです。人員を増やさないといけませんね」
「ええと……まあ、仕事も確かに忙しくなるけど、そうではなくてだな……」
ネストレは言いかけて、口を噤む。これ以上自分がどうこう言うのはお節介なのかもしれない。
「……まずは自覚するところから頑張れよ」
それだけ言って、シルヴェリオの肩を叩いた。
「えっ……臨時休業?」
フレイヤはネストレに聞き返してしまい、慌てて口を噤んだ。いくら驚いたとはいえ、平民の自分が王族の許可なく話すわけにはいかない。
そんなフレイヤに、ネストレは柔らかく微笑む。
「畏まらなくていいよ。俺はここにお忍びで来ているのだから、シルの知り合いだと思って気軽に接してくれたらいい」
「お、お心遣い感謝いたします……」
本人から許可が下りたが、王族に対してそう簡単に気軽に接することができるだろうか。いや、できない。
あまりにも畏れ多い配慮に、フレイヤは曖昧に笑みを浮かべるしかなかった。
「原因はセニーゼ商会にあるようだ。このところ、セニーゼ商会の商品を運んでいる馬車がことごとく強風被害に遭ったらしい。それで納品の遅延が増えていてね。セニーゼ商会からの仕入れを頼りにしていたカルディナーレ香水工房は香水の材料がままならないから休業を余儀なくされたところだ」
セニーゼ商会は平民の豪家セニーゼ家が保有する商会で、王国随一の影響力を誇る。
カルディナーレ香水工房の工房長のアデラルドの妻の実家でもある。そのためカルディナーレ香水工房は材料から瓶まで全てそこから仕入れている。
「いくつかの災害発生現場に妖精の姿が視れる者がいてね。彼らは口を揃えて風の精霊のシルフを見たと言っていた。どうやらかなりご立腹だったそうだ。その噂も相まって、今はセニーゼ商会からの購入を控える貴族家が出始めている。精霊の怒りを買ったとなれば、しばらく商売にならないだろう。誰だってそのような者に関わって火の粉にかかりたくないからね」
妖精もさることながら、精霊のような超越した存在に目をつけられているということは、それなりに大きな罪を犯したのではないか。
その憶測が人々の間で芽吹き、大きく膨らんでいる。
もしも精霊の怒りを買ったのであれば、彼らと関わっている自分たちも悪事に加担したと思われてはならない。
これまでセニーゼ家頼りにしていた人々は、手のひらを返して彼らとの関わりを断とうとしている。
「カルディナーレ香水工房はどうにか出品する香水を作る事ができても、生産する材料がないと判断されると受賞取り消しとなるだろうね。そうすれば工房の信頼が落ちる。どのみち不名誉な結末となるだろう」
「……なるほど、風の精霊のシルフの仕業ですか……」
シルヴェリオは神妙な顔で呟く。思い出すのは、つい昨日シルフと交わした会話だ。
シルフはハルモニアから、フレイヤを泣かせた者たちに仕返しをしたと言っていた。
フレイヤを泣かせた者たちとは、カルディナーレ香水工房の工房長のアベラルドと、彼と一緒に他の香水工房に圧力をかけてフレイヤを雇わないよう牽制していたセニーゼ商会の面々に違いない。
「シル、なにか思い当たることがあるのか?」
「実は昨日、そのシルフに会いました。彼女はハルモニアという半人半馬族に頼まれてフレイさんを泣かせた者たちに仕返しをしていると言っていたんです」
「えっ、ハルモニアが?」
フレイヤは急に出て来た友人の名に驚いた。
半人半馬族はハーブや薬草や珍しい植物を採集しては人間の商人たちと取引をしている。
ハルモニアは取引している商人や、フレイヤの姉たちから話を聞いて、カルディナーレ香水工房とセニーゼ商会との関係性に気づいて襲撃をしかけたのかもしれない。
となれば昨日シルフと出会った時はちょうど、シルフがセニーゼ商会の馬車を襲撃した帰りだったのだろう。
「シルフに目をつけられてしまったとなると、……これから商会の勢力図が変わりそうですね」
「社交界も変わるだろう。これまでセニーゼ家は平民ではあるものの貴族同然の振舞をしていたからな。彼らの座っていた椅子の取り合いが始まりそうだ」
野心家なセニーゼ家の当主は娘たちを貴族に嫁がせて繋がりを作っては政治に介入してきた。
今では貴族のパーティーにも堂々と出席するほどの力をつけているのだ。
自身の利益のために政治を動かそうとするセニーゼ家の当主を疎ましく思う貴族家は多い。その筆頭はエイレーネ王国では王族の次に権力があると言われているイェレアス侯爵家だ。
まだ水面下ではあるが、両社は対立ばかりしている。
ネストレはニヤリと意地悪く唇を持ち上げた。
「このところ、引退したはずのお爺様が張り切って出陣の準備をしているそうだ。今にセニーゼ家を完膚なきまで打ちのめすだろうな」
母親――王妃はイェレアス侯爵家出身のため、ネストレもまたセニーゼ家を良く思っていないらしい。彼らの窮地を楽しんでいるように見える。
「カルディナーレ香水工房の出場が危ぶまれている今、社交界ではコルティノーヴィス香水工房の一強だと言われているよ。まあ、俺はカルディナーレ香水工房が今回のような窮地に陥らずともルアルディ殿には敵わないと思っているのだけど」
ネストレも王妃と同じくフレイヤ贔屓だ。フレイヤが優勝すると信じて疑わない。
フレイヤはネストレからの称賛の言葉にただただ恐縮した。
「そう言えば、シルはコルティノーヴィス伯爵からセニーゼ商会についてなにか聞いていないか?」
「実はちょうど昨夜、姉上からその話を聞きました。セニーゼ紹介の上層部から連絡があり、香料を一部融通して欲しいと頼まれたそうです」
「なるほど、八方ふさがりだから商売仇に縋ることにしたのか。それで、コルティノーヴィス伯爵はどうした?」
「丁重に断ったそうです。他の香水工房からもセニーゼ商会からの納品が遅れているから助けてほしいと連絡があって、買い占められてしまった。だから少しも余力がないと言ったそうです。それに、フレイさんの香水が受賞して生産する時のために材料を残していたいから断ったとも言っていました」
「さすがはコルティノーヴィス伯爵、いい判断だ」
シルヴェリオもネストレもセニーゼ家に同情していない。今まで彼らがしてきたことを思えば当然の報いだとさえ思っている。
しかしフレイヤはどこか気落ちしており、黙って二人の話を聞いていた。
「もしカルディナーレ香水工房が競技会に出場できなかった場合は、どうなるのでしょうか?」
「香水工房としての信頼を失うことになるから、事業を続けていけなくなるだろうな。特に工房長のアベラルド・カルディナーレは調香師としての地位を失うことになるはずだ」
「調香師としての地位を失う……」
フレイヤはネストレの言葉をオウム返しすると、表情を硬くした。
「あの……、競技会の日程を遅らせることはできないでしょうか?」
「遅らせる? どうして?」
ネストレの問いに、フレイヤはやや視線を彷徨わせる。
「シルフに頼んで、馬車を襲うのを止めてもらうつもりです。それから再び材料を集めた時に間に合う日程にするのはいかがでしょうか?」
「本気で言っているのかい? 奴らは君を調香師の世界から追放しようとしていた連中だぞ?」
「そうです。カルディナーレ氏によって私はもう調香師になれないかもしれないという苦しみを味わいました。その苦しさを知っているからこそ、他人に同じ苦しみを味わわせたくないんです」
フレイヤは若草色の目で真っ直ぐネストレを見つめた。
「このまま見て見ぬふりをしていたら、彼と同じ罪を背負うことになってしまう気がするんです。私はそうなりたくありません。もしもそのようなことになれば、調香している時に迷いが生まれてしまいそうな気がするんです」
「……なるほど、お人好しな考えだが――ひたむきに己の仕事に向き合うその姿勢と敵にも誠意をもって向き合うその心意気、嫌いではない」
ネストレはフレイヤの右手を手に取ると、その甲にそっと唇を触れさせる。
「~~っ!」
突然のことに驚いたフレイヤは、声にならない悲鳴を上げた。
条件反射で後退ったが、その手はネストレにがっちりと掴まれており逃げられなかった。
慌てふためくフレイヤに、ネストレは貴族令嬢たちが見たら黄色い声を上げそうなほど甘い微笑みを作る。
「提案がひとつある。俺にかけられた呪いを解いてくれた礼として、その願いを叶えられるかもしれない。君を陥れようとした者たちのために使ってもいいのかい?」
「も、もちろんです! よろしくお願いいたします!」
「ええ……本当に承諾してしまうとは……心配になってしまうほどお人好しだね。テレンツィオが言っていた通り、あの人にそっくりだ」
ネストレは小さく呟くと肩を竦めた。
つい最近、快気祝いに来てくれた従兄で司祭のテレンツィオ・イェレアスから聞いた話によると、フレイヤ・ルアルディという名の調香師は彼らの祖父――先代侯爵の弟にあたる人物とよく似ているらしい。
ふと、突き刺さるような視線を感じたネストレは、その視線の元――シルヴェリオに顔を向ける。シルヴェリオの深い青色の目が、いつになく剣呑な気配を纏っているではないか。
「シル、どうかした?」
「……なんでもありません」
「不機嫌そうな声で言われても、説得力がないんだけどなぁ」
やや口を尖らせつつ、フレイヤの手をそっと離す。
どうやら彼女がシルヴェリオの逆鱗になりつつあるということも、従兄から聞いていた。
「これから忙しくなりそうだな」
「ええ、きっと今以上に香水の注文が入ってきそうです。人員を増やさないといけませんね」
「ええと……まあ、仕事も確かに忙しくなるけど、そうではなくてだな……」
ネストレは言いかけて、口を噤む。これ以上自分がどうこう言うのはお節介なのかもしれない。
「……まずは自覚するところから頑張れよ」
それだけ言って、シルヴェリオの肩を叩いた。