クールな御曹司の溺愛は初恋妻限定~愛が溢れたのは君のせい~
 手を繋ぐどころか、部活や家族のことで用事がある時以外、言葉を交わしたこともあまりないのだから。
『週末、うちでパーティーをやるらしいから、神崎さんの家族に伝えておいて』
 彼に声をかけられて、ただ返事をするだけ。
『あっ、はい』
 プライベートで会っても、彼を意識するあまり緊張で話なんてできなかった。出会った時、私から声をかけたのは、あの場に子供が彼しかいなかったから。有栖川さんが大企業の御曹司でなければ、今頃もっと打ち解けて話せていただろう。
 婚約の話を断れればいいのだけれど、ARSに勤務している父が社長や会長に『破談にしてください』なんて言えるわけがない。
 いや、そもそも会長の戯言と思って本気にしていなかったのだ。会長はたまに突飛な発言をすることで有名だったそうで、父も社長もお茶会の場でのジョークと解釈していた。転校の話が出た時もまたいつもの会長の気まぐれと思っていたらしい。
 でも、最終的には私が父に『蒼くんと同じ学校に行きたい』とお願いして、転校が決まった。それでも父はそのうち会長は私のことを忘れ、どこかのご令嬢を有栖川さんの婚約者に据えるだろうと考えていたそうだ。
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