冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる
 芽吹きの春を連想させる優美なフルートの旋律が聞こえてきて、ハッと意識を取り戻す。耳に馴染んだ音色はどこで聞いた曲だったか。ワルツでよく使われる初心者用の定番曲であることを思い出し、ふと瞼を開ける。

(…………あら?)

 目を開けた先にあったのは天国や地獄ではなく、豪奢なシャンデリアが輝く王城の大広間だった。鼻につくのは、甘ったるい香水の匂い。周囲を見渡すと、着飾った紳士と淑女があふれかえっている。
 既視感のある光景に戸惑いが隠せない。だが磨き抜かれた大理石の床は、天井で煌々とゆらめくシャンデリアの蝋燭の明かりを反射していた。大広間の端には護衛騎士や使用人が控え、視界にはくるくると優雅にステップを踏む男女の姿が映っている。
 そして、魔法で創り出された白い羽根が舞う舞踏会は年に一度しかない。
 ルーリエはおそるおそる自分の装いを確認し、絶句した。

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