冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる
「ルーリエ嬢。名前の響きも素敵ですね。僕はヨハニスです。一曲、踊っていただいても?」

 王子様からダンスを申し込まれる、それは令嬢なら誰しも一度は夢見る場面だ。
 だが人生二度目のルーリエにとっては心底喜べない申し出だった。思い出すのは憎悪と侮蔑が混ざった眼差し。

(とても虫けらを見る目で断罪した者と同一人物とは思えないわね……)

 時間が巻き戻るなんて到底信じられないが、信じるしかない。
 なぜなら、ヨハニスの一連の行動もダンスの誘い文句も、すべて記憶と同じものだった。この既視感は、まるで何度も読み返した絵本を開いたときのようだ。

(……そろそろ現実を受け止めないといけないようね)

 ここでダンスを拒否すれば周りの印象が悪くなる。となれば、さっさと終わらせるのが吉だろう。
 穏やかに微笑む顔にぎこちなく頷く。
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