新 撰 組 終 末 記




『私は…間者などではありません。 それを証明することも出来ません。 しかし…』



勇「…雪乃さんは、何故ここに来られた?」



 言葉に詰まる私に、そう言ってくれる。



『…身寄りが…ありません。 親も、兄弟も、いません。』



歳三「今まで何してた」



 まるで尋問のように、そう問い詰められる。



 女であるけれどもお構い無しだ。



 ここは、そういう世界なんだろう。



『……記憶が、無いん…です。 思い出そうとしても…頭が痛くなって、』



 半分、事実だ。



 令和での記憶は残っているが、思い出そうとすればするほど、頭痛が激しくなって それを邪魔する。



 ……正直、不安だ。 このまま、記憶が脳の中に閉じ込められてしまうのではないかと思ってしまう。



 巫山戯ていると、殴られるだろうか。



 でもどうしてタイムスリップしたのかも、検討がつかない。



 沖田氏縁者の墓に、お墓参りしたから?



 どういう理屈なのか、全く分からない。



 ……グスっ…ズズッ…グス…



歳三「……あ?」



勇「っ…グスっ…トシぃ…もうダメだ…」



 鼻をすすって、大泣きをする大人を前に、混乱する。



新八「ガハハッ!! まーた出やがった。もうこれ何回目だよ」



総司「まったくです…局長ったら涙脆いんですから」



 ええっ…どういうこと…?



勇「雪乃さんっ!!!」



『ひゃっ…!!』



 ガシッと、長机越しに手を握られる。



勇「いくらでも!!ウチに居るといい!!」



歳三「おい!!俺は認めねーぞ…!!」



 バンッ、と机を叩く土方さん。



勇「トシィ…!! 身寄りもない、記憶もない、そんな女の子を放っておけるわけないだろう!!」



歳三「んなこた知らねぇよ! 女が入ったら士気が下がんだろ!!」



総司「…でも、雪乃さんを放ってしまったら、武士道に反するんじゃないですかねぇ…」



 はあ…と頬杖をつきながら、そう言う総司さん。



勇「そうだ!! 武士らしく生きる、そう誓ったろう!!」



歳三「総司、っ…てめぇ…余計なこと言いやがって、!!」



 武士道…その言葉を持ち出されてしまったら、歳三は反論出来なかった。



歳三「…っ…チッ…総司にそう言わせるくれぇなら、それ相応の実力は持ち合わせてんだろうな」



 如何にも不機嫌顔で、しかしそれを隠すこともなく私に言ってきた。



『…北辰一刀流の免許皆伝は、持ってます…』



新八「うわ…すっげえ…」



 免許皆伝とは、その流派を他の人に教えてもいいというもの。



 その流派の奥義まで、全てを使いこなした人にしか与えられない。



 勝手に嘘っぱちの型を広められても困るから、指導者は簡単に免許皆伝を出してはならないんだ。



歳三「嘘じゃねーだろうな」



『私は、自分の流派に誇りを持っています。 いたずらに嘘など吐きません』



歳三「……フンッ…まあいい。 どちらにせよ、すぐ分かることだからなぁ」



 ……どういう意味…?



 不思議そうに見つめる私を余所に、不敵に笑う土方さん。



歳三「…わざわざ 評判悪い俺らのところ来てくれるっつうんだ。 歓迎会、してもいいだろ」



 …なんか、この人の歓迎会って 違う意味な気がする。



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