新 撰 組 終 末 記
連れてこられたのは、道場だった。
歳三「持て」
いきなり何かを投げ渡される。
『うわっ…竹刀…?』
…なるほど、理解した。
『歓迎会って…腕試し、ですか』
木刀ではなく竹刀なのは、防具をつけないからだろう。
剣術の対戦をするとき、木刀の場合は硬いため、当たると怪我をしてしまうから防具を必ずつけなければならない。
しかし竹刀ならば当たりは柔らかいから、防具をつけなくても、目を突くなど危険なことをしない限り、当て身程度なら許される。
歳三「おう、相手は選ばしてやる」
ぐるりと周りを見渡す。
いつの間にか、周りには人が増えていた。
…野次馬根性、というやつだろうか。
『…では、あの方で』
?「ん?俺??」
歳三「ほう…いいのか? ソイツは背ぇこそ低いが、腕は立つぜ?」
?「ちょ?! 一言余計ね??」
腕が立つ人だということは、雰囲気からして分かっている。
総司「雪乃さん…あの人は藤堂 平助さんです。 副長助勤なので、幹部の一人でもあります」
平助「アンタも俺と同じ、北辰一刀流らしいじゃん」
ふんぞり返って、偉ぶっている…藤堂。 さん付けする気は更々無い。
『…であれば、これは逆に好機ですね』
あの人を倒せば、きっと認めてもらえる。
道場の真ん中で、藤堂を睨み返す。
審判は、土方さんがしてくれるらしい。
お互いに正眼で構えた。
北辰一刀流 特有の、剣先を ゆらゆら と振って、まるで相手を誘い出すように見える鶺鴒の構えだ。
居着く…つまり、固まることを防ぎ、打ち込む隙を与えない様にするためだ。
シーン…と、道場が静まり返る。
______ダンッ…!!!
先に一歩踏み出したのは、しびれを切らした藤堂。
平助「はあっ…!!!」
振り翳された竹刀を、中央で受け止める。
『っ…』
やっぱり手馴れしてる。 そもそも力の強さが違うし。
『はっ…!!』
力一杯に押し返して、なんとか距離を保つ。
こりゃ、長期戦は不利だなぁ…。
早くかたを付けなきゃ…!
平助「やっぱりな、! 口だけかよ」
勢いに乗られたまま、防戦一方。
バジリと、竹刀がぶつかり合う乾いた音が、道場に響き渡る。
私と藤堂の息遣いしか聞こえない。
それほどに、集中しているのだと まるで第三者が見ているかのような視点で、のんきにそんなことを考えた。
『…っ…はあ…動きを見てただけですけど…』
こんな煽られ方をしたまま、終わるつもりは毛頭ない。
私は下段の構えで相手の出方を伺うが、打ち込んでくる様子はない。 藤堂は、正眼でこちらの様子を見ていた。
私はダンッ、と踏み込んで 藤堂の間合いに入るところで、藤堂は上段に構えて 竹刀を降ろしてくる。
私はそれを、低姿勢で頭の上に竹刀を持っていき流すと、下から藤堂の竹刀を掬い上げるように逆袈裟で振った。
その瞬間、藤堂の竹刀が飛んだのが、スローモーションで見える。
驚いて、目を丸く開く藤堂に、ここぞとばかりに攻める。
後ろに回り込んで、膝の後ろを叩いて跪かせた。
平助「……はっ…は…っ…」
その刹那、私の竹刀の先は、藤堂の喉元に突き立てられた。
動けば、その喉を掻っ切ってやるつもりで。
目を見開き、息の乱れた藤堂と、視線が交わり合う。
ガンッと、鈍い音がして、つい先程まで藤堂が握っていた竹刀が、床に叩きつけられた。