新 撰 組 終 末 記
『……どう? これでいいかな』
道場はいつになく静まり返り、ゴクリと生唾を飲む音さえ聞こえてきた。
『?土方さーん?』
審判じゃなかったの…?
歳三「…雪乃の、勝ちだ」
その言葉を聞いて、喉元に突きつけたままだった竹刀を引く。
?「マジかよ…平助が負けた…?」
??「なんだあの女…」
みんな、予想外だったのか 固まったままだ。
?「おい平助! 手加減なんてしてねーだろうな」
平助「…っ…ははっ…そんな…するわけないだろう」
幹部の一人…おそらく、原田 左之助が藤堂に話しかけた。
傷だらけの胸元から腹筋までを、躊躇なく着物を はだけさせて見せている。 腹には一文字の傷跡があって、これはきっと切腹未遂のときの傷だろう。
昔 上司に「腹を切る作法も知らぬ下司め」と怒鳴られ、短気だった左之助は本当に腹を切ってしまったのだ。
ぽーっと、そんなことを考えていると、
一方の藤堂は、乾いた笑みを浮かべている。
歳三「…おい、斎藤 行け」
黙っていた土方さんは顔を上げると、急にそんなコトを言う。
……え? 相手選ばしてくれて、今勝ったよね…?
勇「…もう十分に実力は分かったろう? いい加減認めよう。トシ」
歳三「うるせぇ かっちゃん。 俺はまだ認めねぇよ。 早く行け、斎藤」
苦虫を潰したように、中性的な顔を歪めていた。
『…納得できません。 実力は十分に証明できたはず』
歳三「…自信ねぇのか」
『……はぁ…』
小学生の思いつくような、やっすい挑発だ。 でもそんなことを言われてしまえば、このまま投げ出すわけにはいかなかった。
というか、それを分かっていて土方さんも言っているのだろうけれど。
『…わかりました、斎藤さん お願いします』
…何処に居るか分からないけれど。
取り敢えず集団に声を掛けると、如何にも寡黙そうな一人の男が出てきた。
一「…斎藤 一と申す。」
新撰組では三番隊 組長をしてたっけ。
お互いに竹刀を持って、正面で構える。 私は先程と同様、鶺鴒の構え。
斎藤さんは、…あの構えって、居合だよね。
まるで、ないはずの鞘に、木刀を仕舞っているよう。
こっちから攻めなければ、いつまでもこの膠着状態が続くであろう。
仕方ない、私から行くか…。
『…っ…!!』
力強く踏み込んで、間合いに入らんところで、鞘から抜かれたように竹刀を私に向けた。
…っ…!!やっばい、!!
『っ゛…』
一「…成る程、止めるか…」
無防備だった左脇腹に、一太刀打ち込まれそうになるが、なんとか反射神経を存分に活かして、竹刀の先で受け止めた。
来るってことは分かっていたのに、いざ来るとなるとやっぱりやばい。
力強っ…!! 押し負けるっ…。
『…あっぶない…』
斎藤さんの攻撃をなんとか流す。
ビリビリと痺れる手を誤魔化すように、竹刀を握りしめた。
今度は斎藤さんから、深く踏み込んで仕掛けてくる。 逆袈裟を仕掛けてくるのを見切り避けると、空いた胴を狙う。
一「ぐっ…」
斎藤さんは無理矢理 体を捻り、遠心力で私の竹刀をかろうじて弾いた。
今度は自分の胴が空いてしまったので、一旦下がる。
斎藤さんは今度は下段の構えで構えるが、無理に体を捻ったことにより、脇腹の筋肉が急に伸びてしまい、痛むようで 顔を少し歪めている。
『…行きます…!!』
こんなに強い人、出逢ったことなくて、気分が高揚しているのが自分でも分かる。
空気に押されたのか、馬鹿 真面目に宣言した。
一「…っ…!!」
こごで、披露したことのない突き技。
総司「…えっ…」
ただの突き技ではない。
歳三「……総司…」
後に、新撰組 最強の天才剣士と呼ばれた 沖田 総司が最も得意とした、三段突きだった。