新 撰 組 終 末 記




勇「雪乃殿、折角 皆揃っているのだから、もう一度 自己紹介をしようじゃないか!」



『あっ…そうですね』



 みんなの視線が、私に注がれる。 パチリ、と箸置きに箸を置いて、背筋を伸ばす。



『雪乃と申します。 北辰一刀流の免許皆伝です。 実は記憶喪失…というか、今までの記憶が曖昧なんですけれど、よろしくお願いします』



 ここは記憶喪失…っぽい人ということで通そう。



 ぺこり と、頭を下げる。 頭を上げると、私のことを詳しく知らなさそうな人たちは、マジか…という感じで見られた。



勇「雪乃殿はこの通り、珍しいナリをしているんだが 剣技も容姿も一級品。 記憶喪失だから、何かと不便があるだろうが、皆 仲良くしてやっておくれ」



 近藤さんは局長、ということもあるだろう。 皆、断れない様子で「承知」と、口々に呟いた。



総司「では、私から! 壬生浪士組、副長助勤の沖田 総司です! 副長助勤とは、まあ組織の幹部のようなものです」



 ニコッと、屈託なく微笑むその人は、とても人を斬るようには思えない。



左之助「さっきも言ったが、俺ぁ原田 左之助。 総司と同じく、副長助勤じゃ」



新八「俺は永倉 新八ね。 副長助勤だよ」



 あっ…やっぱり永倉さんって強いんだ…。



 切れ長の目に、スッとした鼻筋、少し日焼けした肌、 綺麗に整えられた髪の毛は、余計に凛々しさを際立てた。



平助「…藤堂 平助。 同じく副長助勤」



 藤堂は借りた猫のように大人しく、こちらを一瞥したかと思うと、まるで酒のように、湯呑みに入ったお茶を煽った。



 藤堂の容姿はその態度に似て、丸くパッチリとした目で、猫っ毛なのか、細くてクルクルした髪の毛を遊ばせている。



 しかし無地ながらも、遠くからでも分かる素材の良い羽織を身に纏っていたり、食べるときの作法を見るからに、育ちの良さが伺いしれた。



一「…俺は斎藤一だ。 皆と同じく副長助勤。 …先ほどの剣技は美しかった」



 斎藤さんは細く鋭い目で、やや色黒、キリッとした眉は、より近寄り難さを感じさせるが、口調は思いの外柔らかい。



『あ、ありがとうございます…』



 そんなに面と向かって歯の浮くようなセリフを言われたことないから、少し顔が赤くなった。



源三郎「俺は、井上 源三郎だ。 皆からは源さんとか呼ばれてるが、好きに呼んでくれ」



 大柄で、包囲力があり、兄貴気質。 決して愛想は良くないが、人の良さそうな方だなと感じた。



魁「俺は島田 魁です。 諸士取扱役兼監察を…」



 しょししらべやくけんかんさつ…って、何だろう…。



総司「ああ、もう…島田さんったら。 難しい言葉を使うもんじゃないですよぉ…。 まあ、つまり 敵方に諜報しに行ったりする人のことです」



 ポカンとしている私に見かねたのか、助け舟を出してくれた。



魁「…そういうことだ。 よろしく頼む」



 コクリと喉仏を動かして、喉を潤す島田さんに、ペコっとお辞儀をした。



敬助「私は山南 敬助です。 副長をしています。 よろしくね、雪乃さん」



 柔らかい物腰で、少し微笑む姿は仏のようにも思えた。



 あのお墓の人だ…。



 …今の時代って、総髪か ちょん髷が主流だろうけど、ザンギリ頭の人も多いんだなぁ…。



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