新 撰 組 終 末 記




歳三「…山南さんと同じく、壬生浪士組 副長の土方 歳三だ。」



 こちらを一瞬見たかと思うと、睨みを効かせながら名乗った。



勇「そして俺が壬生浪士組 局長の近藤 勇だ。 他にも幹部が居るんだが、もう一つの屯所である八木邸を拠点としているから、また今度 挨拶をすることになるだろう」



『分かりました』



 きっと、芹沢 鴨や新見 錦たちのことを指しているのだろう。 前川邸には近藤派、八木邸には芹沢派が住んでいたからね。



総司「…それにしても土方さん。 雪乃さんが女子であることは、平隊士には言うんですか?」



歳三「…ああ、そりゃ どうしようかと思ってんだ。 女であることを隠すか、それとも公にするのか」



 私に視線を寄越してきた。 土方さんは、私に強制するつもりでは無いんだろうけれど…。 私的には、別にどちらでも構わないからなぁ…。



歳三「女子であることが知れ渡れば、舐めて掛かってくる奴も居るかもしんねぇ…。 隠したほうがいいと俺は思う」



総司「…それに、女子の着物は 隊士として職務を行う上で、動きにくいかもしれませんねぇ…。」



 確かに、着物じゃあ歩幅も狭くなるし、刀を堂々と持つことは出来ない。 やっぱり、男装したほうがいいよね…。



勇「でもなあ、俺は別に隠さなくてもいいと思うぞ。 雪乃さんの剣の腕前は、平隊士には到底敵わぬ。 それに雪乃さんは俺たちの仲間だ。 窮屈な思いをしながら生活をして欲しいとは思わない」



 …いつの間にか、雪乃殿から雪乃さん へと呼び方を変えた近藤さんは、へにゃり と口元を歪めた。



 皆、食事の手を止めて 近藤さんの言葉に耳を傾けている。 …ああ、だからこの人が局長なのだと、だからこんなに慕われているのだと、そう納得した。



 彼の優しい人柄は、武士としては弱点にもなり得るが、一人の人間としては、たくさんの人々を引き付けて離さないのだ。



勇「でも一番大事なのは、雪乃さんの意思だ。 男装したいのであれば、何も言うまい」



 そう言って、微笑んだ。



『…私は…男装、しようと思います。 出来るだけ、平隊士の人にはバレないように』



勇「相分かった。 名前はどうする? 雪乃さんだと、女子感が否めない。」



 確かに…そうだなぁ。



 男装をするのなら、変名もしたほうがいいだろう。



『……雪景(ゆきかげ)、にします』



 まったく違う名前だったら、反応できないかもしれないし。



勇「うむ、これからは雪景くんと呼ばせてもらおう」



歳三「…チッ……しゃあねぇな…。」



 さすが近藤さん。 鬼の副長として有名な土方さんでも、彼の決定に逆らえないのだ。



勇「…というわけでだ! 我々 壬生浪士組一同、雪景くんを歓迎する。」



 ジロッと睨みを効かす土方さんは…きっと違うだろうけどな…。



 この先が思いやられる…。



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