新 撰 組 終 末 記
"歳三SIDE"
視線を、雪乃から離さない。
こちらの視線に気まずそうにしながら、飯を食べている。
勇「トシ…何をそんなに雪景くんを煙たがるのだ」
歳三「うるせぇ…チッ…なんでアイツら負けんだよ…島田にでも調べさせる」
少しやけになりながら、湯呑みの中の茶を煽った。
勇「こら、聞こえるじゃないか」
歳三「フンッ…どうせ聞こえやしねーよ」
俺らは上席で、あの女は末席に座っているからな。
勇「でもなあ…俺は間者ではないと思うよ。 だから招き入れた」
おちゃらけた雰囲気を出しておきながらも、目はいたって真剣。
勇「雪景くんにはな、副長助勤になってほしいと考えてる」
歳三「ばっ…んなことしたら、アイツの思う壺かもしれねぇぞ。 第一、女だろ。 バレちまえば平隊士が納得するとは思えねぇ」
局長、副長、副長助勤は 壬生浪士組の顔だ。
巡察に行くときも先陣を切り、戦いの時は指揮を取ることだってある。 女の下につきたくねぇっていう輩は、ごまんといる。
俺だって、女の下につけと言われたら、なけなしの誇りが傷つけられる。
勇「藤堂も倒した、斎藤とも互角。 それを平隊士にしておくには惜しい。 不平等に扱うつもりはない」
…この、頭でっかちが…。 コイツの頑固さは、小さいときからずっと一緒だった俺は知っている。 一度決めたら、馬鹿みたいに揺るがない。
俺がどーだこーだ言ったところで、この男の気持ちは変わらない。
歳三「…芹沢さんたちには隠すのか?」
ここであえて、芹沢派を出してみる。 すると、少し顔を歪めた。
勇「…雪景くんが隠すのならば、我々は全力で隠すのみだ。 バレてもきっと、気に入ってくれるだろう。 芹沢さんは、新しいものや面白いものが好きだからな」
…あと、女のケツもな。
確かにバレたとしても、芹沢は 女のくせに、剣術が一丁前となれば、きっと興味をそそられるだろう。 …あの人は、強気な女が好きだしな。
歳三「…新見は」
新見とは、新見錦のこと。 芹沢一派で、つい最近まで局長に名を連ねていたのだが、5月に入り 今までの乱暴狼藉により、副長へと降格となった。
アイツは、いくら芹沢の犬といえ、黙っているとも思えない。
勇「…新見には、手出しはさせない。」
急に、低く 空気が凍てつくような声色になった。 近藤さんは、新見に対して あまりいい感情を持っていない。
芹沢は、女子供には比較的優しいが、新見は容赦がない。 平気で手を上げ、他人から金を巻き上げる。 武士の端くれにもなれないヤツだ。
最初からいけ好かねぇ奴だと思ってはいたが、最近は特に酷すぎる。 流石に近藤さんも、堪忍袋の緒が切れかかっていた。
本当は、降格ではなく辞めさせようとしていた近藤派に、待ったをかけたのが芹沢鴨。 芹沢の情けで、降格だけとなったのだ。
歳三「…ああ、そうだな…」
これからのことを考えると、ため息が出た。