桜が満開のときに
  一時間目はいきなりの数学だった。


 「それでは、数学IIの教科書の六ページ開いて。

 今回は、第1節の式と証明をやります。」


 と数学の先生の授業が始まった。


 そのとき、コンコンと机を叩く音が近くで聞こえたと思ったら、私の机だった。


 恐る恐る隣を見ると、満月綺葵琉が


 「教科書見せて」と私にお願いポーズをしていた。


 どうやら忘れたらしく、私に見せてもらいなさいと数学の先生に言われたそうだ。


 先生が私に頼んだのだから、私は観念して、見せることにした。


 「......どうぞ。」


 どうぞと言った私の声は少し震えてて、自分でも自分の声に少し怖さを感じた。


 「ありがとう。」と低くて優しい声で言われて、少し驚いた。


 この人はこんな声も持っているのだということを。



 先生の説明が終わり、演習問題の時間になった。


 数学は特に好きな科目の一つであるため、スラスラと問題を解けて、とても楽しい。


 ひたすら、先生が黒板に書いた問題をスラスラ解いていると、


 「解くの、はやっ」と言われていたようだが、


 問題に熱中しすぎて周りの声など聞こえなかった。


 なんてこんなに楽しいのだろう。



 答え合わせの時間になった。


 見事に全問正解でとても嬉しかった。


 心の中でやった!とガッツポーズをした。


 「全問正解......ガチ優等生かよ笑」


 と隣から笑う声が聞こえた。


 とっさにノートを隠した。


 「名前、門叶 澄音(とがの すみね)っていうだ~

 ”澄音”って呼んでいいよね」


 急に話題が変わり、相手の空気に呑まれて、返事に困った。


 「苗字でいいよ。

 別にそんなに話す仲でもないし......。」


 と頑張って返事したが、結構トゲのある返事にしてしまい、焦った。


 (ヤバい、ど、怒鳴られるかも......。)


 「教科書見せた仲じゃん、真面目だなぁ

 ってことで’’澄音’’。

 俺のことは名前で呼んで。」


 と怒鳴る素振りもなく、淡々と会話が進んでいく。


 たまたま私たちの会話を聞いていた、前の席に座っていたあまちゃんが、


 「澄音、嫌がってんじゃん。

 しかも、私の澄音いじめないでもらっていもいい?」


 とかばってくれた。


 「出た笑笑

 海音の澄音ちゃんは私のもの宣言!!」

 と周りの女の子たちが笑っていた。


 「海音は本当にとがちゃん好きだね~」


 「綺葵琉~、海音は敵にまわしたら、お前でも負けるかもよww」


 あまちゃんはドヤッとしていて、


 「澄音はおまえにはわたさんからな!フン!」


 と言って、少しの笑いを生んだ。

 
 「ってことで、澄音。よろしくな!」


 周りの声など気にせずに話しかけられた。


 何を言われるか分からなく、怖かった私は小さく頷いた。




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