桜が満開のときに

　　二年生の学校生活にも慣れてきた、六月くらいだった。


　こんなことが起きるということを忘れていた。


　一度経験したことがあったから、こんな嫌なことはもう経験しなくていいと思っていたのに。


　幸せで楽しくて頭の中から消えていた。


　学校の人気者と仲良くなることはこういうことも必ずついてくる。



　「ちょっといい？」


　普段は甲高い声なのに今は違う、ぞっとするほど低い声。


　
　今は放課後で、教室に残る人はあまりいない。


　それぞれ部活やらで忙しい。


　あまちゃんのバスケ部のエースとしてHR(ホームルーム)が終わった途端に


　一目散で教室を出るくらいの勢いで部活に直行する。


　
　少しどころかとても焦っていたというか怖かった。


　自分でも勘づいていることだし。


　どう答えようか考えとこうとずっとぐるぐると考えていた。



　考えながら後をついて行っているといつの間にか校舎の裏側にいた。


　そこには見覚えのある三人の女の子たちが立っていた。


　そう、彼女たちは綺葵琉くんとよくつるんでいる女の子たちだった。


　最近は彼と彼女たちが一緒にいるところをあまり見ていなかったから、


　少し油断をしていた。



　「あんたが綺葵琉とよくいるヤツ？名前は？」


　待っていた女の子たちの一人が口を開いて、私を睨みながら問う。


　少しビクッと肩を震わせた私に気づいたのか、他の女の子たちが少し笑っているように見えた。


　「と、門叶......澄音......です。」


　震えた手同士を握りしめ、震えた声で答えた。


　「門叶澄音？どっかで聞いたことあるんだけど。」


　私に名前を聞いた女の子一人が少し考え込むように話す。


　「えっ、テストで学年一位のヤツ？」


　まるで私の何もかもを知っているかのような素振りを見せる感じの口調で別の女の子が口を開く。


　他の女の子たちが少し驚いたようにざわざわし始めた。


　「きあがいつも勝てない、あの不動の一位？ヤッバ笑笑」


　少し驚いているようだったが、


　「待って、学年一位の秀才だからってさ

　うちらのきあに近づかないでくれない？

　あんたみたいに最近仲良くなったんじゃなくて、一年前からうちらの方が仲いいの」


　すぐさま開き直り、文句を言い始めた。


　最近、私が綺葵琉くんと仲良くしていることが女の子たちで結構、噂されていたらしい。


　そんなこと全く気づかなかった。


　少しの油断がこういう結果をまねいてしまったのかもしれない。


　どう反応していいのか分からず、少し俯いていた。


　「何か答えろよ。

　とりあえず、もう綺葵琉と話さないでくれる？

　
　最近、あんたばっかといてさ、

　うちらと会ってくれないんだよ。

　他にも綺葵琉と仲良いやついるしさ。

　あんたみたいなやつにかまってる暇はないの。

　分かってくれるよね？」


　ひたすら彼女たちに言われ続ける。


　「だ、誰と会うかなんて、綺葵琉くんが決めることだから、

　私たちがどうこう言うことじゃないと思う……。」


　勇気を振り絞って、私の思っていることを率直に言った。


　でも、それは彼女たちを逆に火をつけてしまった。


　「何コイツ」


　蛇のように細く、鋭い目つきで思いっきり睨まれた。


　その瞬間、ビクッとなったが、負けじと彼女たちに視線を向ける。


　少し目に溜まった涙が溢れそうになったが、


　涙を流したら、私の負けになってしまうから、ずっと耐えていた。


　「マジでムカつく」


　そう一人の女の子が呟いた瞬間、手が伸びてきて、殴られそうになったその瞬間だった。