桜が満開のときに
 「何してんの」


 誰かの透き通った声がした。


 その声には聞き覚えがあった。


 静かにその声の視線に目を向けると、


 そこには壁に寄りかかっている綺葵琉くんがいた。



 「えっ」


 彼がなぜいるのか分からず、思わず声が出てしまった。


 「何で」


 ただただ言葉が詰まる女の子たちは呆然と立ち尽くしていた。

 「その手何?

 女の子に手を出すのはどうかと思うけど?」



 「あとさ、

 俺が誰と話そうかは俺が決める。

 俺と最近話せてないから、

 最近俺が楽しそうに話す”澄音”に、

 四対一で当たるのはどうかと思うけど?」


 淡々と言葉を並べて話し続ける。


 「最低」


 そう言い残して女の子たちはその場を離れていった。


 「......」


 これはなんて声をかけてべきだろう。


 ずっと考えているその時に、


 「何された?

 ごめん、まきこんで。」


 綺葵琉くんが心配そうに私に聞いた。


 「だ、大丈夫だよ」


 そう答えた。大丈夫以外になんと答えればいいのか分からなかった。


 どんな顔で目を合わせて話せばいいのか分からなく、俯く(うつむく)


 自分の上履きを見ていたら、急に視界がぼやけた。


 (あぁ、涙か……)


 我慢していた涙が溢れこぼれて、下に雫が落ちた。


 (あぁ、やっぱ私はダメだな)


 そう思っていたら、急にグイと顔を上げられた。


 涙でグシャグシャになった私の顔を彼の大きな手で拭かれた。


 「俺さ、実は結構始め辺りからいたんだよ。

 見つけた途端、すぐに止めに入ろうと思った。

 でも、澄音が

 『誰と会うかなんて、綺葵琉くんが決めることだから、

 私たちがどうこう言うことじゃないと思う』

 って言うのが聞こえて、

 やっぱ、澄音は強いよ。」


 私が思っていないこと言われて、思わず彼のこと目を見開いて見てしまう。


 それでも、私の思ってることは変わらないから、言葉にして言う。


 「私は強くない。

 今だって涙が溢れこぼれているし......。

 言い返せても、もしあのときに綺葵琉くん来なかったら、

 私はすでに殴られていたかもしれなかった。」


 彼の言うことを否定すると、ポンポンと彼の大きな手が私の頭の上にのった。


 「俺が強いって言ったら、強いんだよ。

 でも、次こそはテスト学年一俺が取るから。」


 (私は強い……?強い……信じていいのかな)


 「でも、学年一は譲らないよ」


 涙を(ぬぐ)って、少し笑ってみせた。


 彼の言葉のおかげで少し心が楽になった気がした。




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