噂の絶えない彼に出逢って,私の世界はひっくり返る。
「今日はなに食べたの」

「いつもと一緒,食パン1枚。その質問,楽しい?」

「楽しいよ。疑問系で喋れば,ジュナさん無視できないでしょ」



人の弱味につけこんで。

気づけばたかが数日で私達の会話が微妙に増えてしまっている。



「ねえジュナさん」

「~っもう,次は何なの?!?」

「あはは。ねえジュナさん……なんか,可愛くなった?」



私が向けば,何故かいつも直ぐに目があってしまう。

桜井くんは,微かに嬉しそうに細める。



「なるわけないでしょ! 私はなにも変わってないんだから!!! ~っばか! 最低っ」



そんな風に,桜井くんのことなんて知りたくないのに。



「……そう? じゃあ,俺の方が何か変わったのかな」



そうやって,少しでも意味の分からない言葉が返ってくると。

桜井くんに返すために,意味を考えようとしてしまうようになったのが嫌だ。



「そんなの,知らないわ」



なのに,折角考えても分からない事が,嫌だと思うようにもなってしまった。

悪くいえば迷惑で,良く言えば存在以外は無害。

下らない会話を重ねて,突き放すタイミングを失ってしまったことに。

今は1番,困っている。



「ジュナさん,敬語,取れてきたね」



したり顔で,桜井くんが嬉しそうに笑う。

そんな風に,私の些細な変化を見逃さない桜井くんは,結構手強いようだと。

私はその時,ようやく初めて自覚したのだ。
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