噂の絶えない彼に出逢って,私の世界はひっくり返る。



「ジュナさ~ん」



袖同士をくっ付けて入り口に立ち続けていた私は,どっきんと肩を揺らす。

直ぐ近くには当たり前ながらクラスメートがいて,まむくんもいて。

私はちらりと声の方を見た。



「桜井,くん」

「うん。おはよう,ジュナさん」



何となく,気恥ずかしくて。

まむくんの方を向けなくて。

まむくんがいる今,私の居場所はここじゃない気がして。

私は少しだけ,顔を背けた。



「ジュナさん,どうして今日は置いていっちゃったの?」

「私が桜井くんを待ってたことなんて,ないでしょ」




まむくん無しの,1人で登校していたこの前まで,私が一番最初に顔を合わせるのは桜井くんだった。

それは全部,玄関でタイミング良く桜井くんが顔を出して話し掛けてくるから。

だからそれが日常みたいになってたけど。

でも,だって,約束なんてしてないから。

噂されるのも,めげずに話し掛けられるのも,本当はないほうが嬉しいから。

そんな風に言われる理由なんてない。

それに今朝は



「自分だって,いなかったくせに」



ぽそりと呟いた言葉は,聞いたこともないような子供じみた音をしていて。

私は自分の事ながらとても驚いた。

私は気にしてない。

まむくんが隣にいたって,緊張なんかしてなかった。

極々当たり前に,普段通りに真っ直ぐ教室に向かってきた。



「今の……やっぱなし……っ」
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