噂の絶えない彼に出逢って,私の世界はひっくり返る。
「痛み,ますか」
「……ハイ。なに,見てたの?」
修羅場から数分も経たず声をかけた奇特な存在に,彼は頭を動かして,好奇心の滲んだ瞳で正面の私を捉えた。
「そこ,座って」
あまり会話をしたくない私が埃と足跡の残る階段を指差すと,彼は意外にもすんなりと従う。
「これ,使ってください。見た目は悪いですけど,ほっとくよりましなはずです」
既に腫れ始めた彼の頬。
指定の通学カバンから冷えピタを取り出すも,すんなり受け取られない。
3枚入りの封をわざわざ切ったのだから,受け取ってもらわないと困るのに。
業を煮やした私が,ん,と押し付けるように力を加えると,彼は調子の戻った顔で笑った。
「そのポーチ,そんなもんまで入ってるの? 女子力? すごいね」
「何でもいいでしょう。現に今,役に立つのだから」
顔をあげると,当然ながら視線が交わる。
ぱっと,私はまた視線を下げた。
「俺不器用だからさ,こんなでかいの,流石に貼れない」
文句,ばっかり!!
荒々しくカバンを漁り,私は筆箱から実用性重視のはさみを取り出す。
そして患部にそぐうサイズに切り,テープと共にまた差し出した。