噂の絶えない彼に出逢って,私の世界はひっくり返る。
桜井 律佳。
薄い肌色の,すべすべで白すぎない肌。
高い鼻とタレ目がちな,パーツの整った顔。
毎日自分で整えられているふわふわの髪の毛は,常に誰かが手を伸ばしたいと囁いている。
いつどこにいても,他の人より目立つ人。
「ああ。"初恋キラーで学校1のクズ"ってやつ?」
その通称は,敢えて無視させてもらおう。
「他人を叩いたことなんて無さそうなあの人が平手を打ったのは,気持ちを裏切られたからかもしれないし,"桜井律佳"にそう言うイメージがついていたからかもしれない」
あの人の涙が,悔しそうなあの顔が。
些細なプライドや浅い感情から生まれたとは思わない。
「でも,だからって甘んじて叩かれる理由にはならない」
つい,感情が乗って。
語尾が小さく震えた。
きっと,さっきみたいなことは良くあることで。
誰にとっても日常茶飯事な光景で。
あの人の攻撃なんて大した威力も無いのだとしても。
男の人の暴力が恐怖の象徴のようなものなのと同じ様に,容認されていいわけはない。