噂の絶えない彼に出逢って,私の世界はひっくり返る。
「さっきの話。あなたを知ってるって。勘違いされたくないから言うけど,私はあなたがどうこうじゃなくて,男の人全般が好きじゃない。だから話も遮った。
でも,同じくらいに暴力だって嫌い」
噂も事実も関係ない。
私はただ,男の人が嫌いなだけ。
他人を他人と徹底して,実際に冷たくしているのだから,当人に冷たいと思われても構わない。
それでも,私が桜井律佳に自分から近寄ってしまったのは,それが理由だった。
「もう,いいですか」
「んーん,まだ」
……まだ,とは?
私はもう,他人としての情は尽くしたのに。
「さっきのはね~。ウワサも全部知ってて付き合ってた彼女。この間デート中に他のこから俺に電話来たのが許せなかったみたい」
でしょうね。
それは,女じゃなくても理解できて当然の感情だ。
『少しくらいって,そう,思ってたのに……っ』
何人の元カノが,そう思ってきたのだろう。
哀れに散った彼女の話を私に聞かせて,元凶の彼は私をどうしたいのだろう。
「俺のこと,嫌い?」
確認するように,彼は言った。