地味子は腹黒王子に溺愛され同居中。〜学校一のイケメンが私にだけ見せる本当の顔〜

葛藤 聖那side










葛藤


聖那side


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ここ最近、生徒会の空気が悪い。




理由は簡単。




俺の機嫌が悪いからだ。




最近、優羽が多くの女子生徒から嫌がらせを受けている。




俺は、その女子生徒らをまとめている奴が上にいると考えた。




その上に立っているやつが誰なのかも、検討がついている。




どう始末してやろうか?




優羽がされていることを想像し、イライラしながら考えていた時。




「聖那。今日も優羽来ないの?」




瑠依が話しかけてきた。




優羽。




最近は、その名前を聞くだけで頬が緩んでしまう。




重症だな、俺。




「こっちから何も言ってねぇから多分来ねぇよ」




「……そ」




分かりやすく落ち込む瑠依。




はっ、残念だったな。




俺は生徒会室に優羽が来なくても、寮に帰ったら優羽がいる。




そのことを打ち明けて思いっきり自慢してやりたいのを抑える。




優羽の声が聞きたい。




そこで、俺はあることを思いつく。




電話かければよくね……?




なんで今まで思いつかなかったのか不思議になるくらい、簡単な方法が頭に浮かぶ。




俺は仕事をする手を止め、スマホを取り出した。




そして優羽に電話をかける。




でも、いつまでたっても優羽は出ない。




聞こえるのはスマホのコール音だけ。




いつもならすぐに出る優羽が、これほど待っても出ないなんてことあるか?




何かおかしい。




優羽に無理やり交換させられた、幼なじみクンの連絡先。




まさか、これを使う時が来るとは。




幼なじみクンに電話をかける。




4コール鳴ってから、もしもし……という幼なじみクンの暗い声が聞こえてくる。




「おい、優羽の居場所知ってるか?」




「はあ?優羽なら教室に少し残るって……勉強するんだろ」




「優羽に電話かけても出なかった」




「は?いや、あいつは勉強中でもスマホの通知は切ってないぞ……?」




「だからおかしいと思ってお前に電話かけたんだよ。じゃやきゃお前に電話とかしねぇよ、すっげぇ嫌だ」




「俺だって嫌だし」




コイツ……




いや、今はこんなことしてる場合じゃない。




「じゃ、切るわ」




「は!?ちょ、おい……!」




まだ何か言いたげな幼なじみクンを無視して、電話を切った。




優羽に……何かあったんじゃないだろうな?




そう考えただけで、思考回路が停止しそうなほど心配になる。




優羽、優羽………っ。




俺は生徒会室を飛び出した。




廊下を全力で走り、周りの生徒に変な視線を向けられる。




でも走らずにはいられなかった。




きっと、優羽は嫌がらせを受けているから。




“アイツ”のやりそうなこと。




気に食わない奴にはとことん嫌がらせをするアイツの性格だから、優羽が酷い目に遭っていることは容易く予想できる。




多分、1年Aクラスに優羽はいない。




それでも一刻も早く着くために、俺は先へ先へと足を動かした。




ガラッ……ドンッ




勢いよく開けたAクラスのドアが跳ね返る。




「……クソッ……」




案の定優羽の姿は無かった。




やっぱり遅かった。




アイツならきっと、人目のつかないところへ連れていく。




教室で勉強していたらしき生徒に優羽を見たかと尋ねると。




「小戸森さんなら、少し前に体調悪そうに出ていきましたけど……」




体調が悪い……?




そのことを聞いた次の瞬間には、その生徒にお礼をすることも忘れて走り出していた。




「はぁ……はぁっ……」




どこにいるんだ、優羽……っ!




俺は学園中を探し回った。




でも、優羽はどこにもいない。




1階を見終わり、2階へと階段を駆け上がろうとした時。




上から、2年の女3人組が降りてきた。




コイツら、アイツの……。




脅してでも優羽の居場所を聞き出したい。




けど、俺の場合はそれよりもコッチの方が効果がある。




不本意だが。




「ねぇ、君たち」




「えっ、神代くん!?ど、どうしたの……?」




「わ、私たちに何か用かな?」




媚びた目でこちらを見あげてくる姿には反吐が出そうだった。




優羽はお前らなんかと違って媚びてきたりしねぇんだよ。




そう口に出したい気持ちを抑え、生徒会長としての俺で尋ねる。




「小戸森さんどこに行ったか知らない?生徒会のことで話があるんだけど、姿がどこにも見当たらなくて困ってて……」




小戸森という名を聞くなり、媚びた目は俺から視線を離す。




「え、えっと………」




「み、見てないかな……」




「教えてくれたら、イイことしてあげようと思ったんだけど、知らないなら……ね」




「い、イイことって……」




女どもは簡単に本性を表す。




俺は嫌々1人の女の髪に触れて言う。




「……こういうこと、だけど?」




「っ……そ、そこを曲がった先の、準備室に……」




そう言ってその女はその場にへなへなと座り込んだ。




「ありがとう」




そして俺はまた走り出す。




優羽、もう少しだけ耐えてくれ。




絶対助けてやるから……っ




そして、俺は1分もかからず準備室に到着した。




ドアを開けようとしたら鍵がかかっていたから、生徒会長だけが持つことを許される合鍵を使い、鍵を解除する。




「優羽っ………!!」




ドアを開けた先には、暗闇の中顔を涙で濡らし、体調を悪そうに顔を歪めて意識を失っている優羽の姿が。




ドクン、と心臓が大きな音を立てる。




「ゆ、う……?」




少しずつ優羽に近寄る。




優羽の体に触れると、酷く熱かった。




「優羽、優羽……っ」




名前を呼んでも反応はない。




このまま、優羽が目を覚まさなかったら……




いや、今はそんなことを考えてる暇はない。




優羽の体調を優先すべきだ。




こんなことをしたアイツに相当の怒りを覚えながら、優羽をそっと抱き上げ、保健室へ向かった。




保健医に椅子に座って待っているよう促される。




「ゆ……小戸森さんは大丈夫なんですか?」




「大丈夫よ。ただ疲れやストレスからの発熱だと思うから、何か辛いことがあるようだったら相談に乗ってあげて」




「はい……」




その後、保健医は用事があるからと出ていった。




俺は優羽の手を握って言った。




「……優羽、早く目覚ませよ……」




そして早く、俺を安心させてくれ。




優羽が目を覚ますまで、俺は優羽の傍を片時も離れなかった。




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あの後、俺は優羽の息の荒さがおさまってきたタイミングで、優羽を寮に連れて戻った。




もう、時刻は夜の7時半。




優羽が倒れたらしき時刻から、約2時間半が経過しようとしていた。




その時。




「………ん」




「っ、優羽?」




優羽が目を覚ました。




よかった、と優羽に言おうとした。




でも、声が出なかった。




何がよかっただ。




優羽は俺のせいでこんなことになったのに、心配する権利、俺にないだろ。




優羽が発熱した原因のストレスも、度重なる嫌がらせからだろう。




俺が、優羽のことを愛してしまったから、優羽は倒れるまで痛めつけられてきた。




なのに優羽は、嫌がらせのことを俺に話そうとしない。




林間学校で、俺のせいかもしれないと打ち明けたから、優羽は俺に責任を感じて欲しくなくて黙っているんだろう。




……そんな優しい優羽に、俺は……。




自分の無力さに腹が立って仕方がない。




「優羽、俺が誰か分かるか?」




「ふふ、聖那さんだぁ……」




「っ………」




なんで……そんなに愛おしそうな目で俺を見るんだよ……。




暗闇は優羽にとって人一倍怖かったはず。




なのに、怖かったの一言もなしに、俺の名前呼ぶとか……いっそ、突き放してくれればいいのに。




「で、体調は?」




必死に平静を保とうとする。




「大丈夫です……へへ」




へへってなんだよ……可愛いだろうが。




内心そう思いながら優羽の頬に触れると、まだ熱が高かった。




「大丈夫じゃないだろ、何かいるものあるか?買ってくる」




「じゃあ……冷蔵庫の中にあるスポーツドリンクを持ってきて貰っていいですか?」




「ああ、分かった」




「ありがとうございます」




そして優羽の部屋を出る。




すると俺は、優羽が目を覚まして安心したのか体に力が入らなくなり、廊下の壁に背中を添わせながら床に座り込む。




「……は、はは……ビビったー……」




本当に怖かった。




優羽はいつ目を覚ますのか、目を覚ました時俺を拒絶しないか。




でも実際の優羽は、あんなに温かい眼差しを向けてくれた。




「ああ……よか、った……」




消え入るような声で呟いた。




自分の大切なものを失いかけたのだ。




あまりに刺激が強すぎた。




少しでいいから寝たい。




眠気に必死に逆らいながら冷蔵庫に向かう。




そしてスポーツドリンクを手に取った時、ある人物から電話がかかってきた。




スマホの画面に表示されている名前を確認する。




これでもう確信した。




優羽に嫌がらせをしているのは……










俺の婚約者だ。




電話に出る。




「もしもし、聖那?」




「おいお前……ざけんなよ」




「何のこと?」




「優羽に手ぇ出したことだよ!」




とぼけている姿に思わず大きな声を出してしまい、優羽に聞こえていないかひやっとする。




「言ってるでしょ。あなたは日本トップの財閥の御曹司。家同士で決められた婚約の相手以外に好きな人ができるなんて、ありえないわ」




財閥、御曹司。




今やそれは俺の大嫌いな単語になった。




俺は……別に御曹司にうまれたかったわけじゃない。




それなのに勝手に将来を決められていくこの感覚。




頭がおかしくなりそうだった。




言われたこと、決められたことをこなして、でも褒めてはもらえない。




俺は孤独だった。




だから、中学の時は女遊びをして孤独を慰めた。




誰かに求められることで、自我を保っていた。




そうでもしなければ、どうにかなってしまいそうだったから。




そんな俺を見かねた親父が、婚約者としてコイツを紹介してきた。




ああ、愛する人まで決められてしまうのか。




それとも、俺に愛する相手など生涯現れないのだろうか。




呼吸をしているだけで、生きている心地がしない日々だった。




でもなんとか生きてきたのは、小学校の頃の優羽を思い出していたからだ。




いつか絶対また会える、会いに行く。




そう思いながら、死んだ方がマシだと思うくらいの日々を耐えてきた。




すると神は俺の頑張りを見てくれていた。




父親に入れと言われ入った蒼穹学園の2年になり、優羽が入学してきたときは、涙が零れそうだった。




泣くな、俺。




これからは守らないといけないものが目の前にあるのだから。




絶対に手放すな。




優羽と再開してからはそう思いながら過ごしてきた。




そして今。




俺の婚約者のコイツが本格的に動き出した。




「で、何するつもりなんだよ」




「あなたのお父様に小戸森さんのことを知らせるわ」




っ…… アイツに知られたら、優羽に何されるか分からない。




でも。




「俺は絶対優羽の傍を離れない」




「へぇ、そう?じゃあ………あなたが小戸森さんから離れないと、小戸森さんに嫌がらせを続けると言ったら?」




…………は?



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