地味子は腹黒王子に溺愛され同居中。〜学校一のイケメンが私にだけ見せる本当の顔〜
AfterStory①詩乃の恋心 詩乃side
AfterStory①詩乃の恋心
詩乃side
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私と優理は、幼稚園からの幼なじみ。
小学校も中学校も同じで、クラスまで全部一緒だった。
私が優理のことを好きになったのは、いつだったかな。
もう、分からないくらい、ずっと前から優理のことが好き。
私が怪我をして泣いていた時。
『大丈夫、もう少しで手当終わるから、痛くなくなるよ』
私がみんなから除け者にされていた時。
『大丈夫、詩乃には俺がいるだろ?』
お母さんが倒れちゃった時。
『大丈夫大丈夫、おばさんは絶対に大丈夫』
そう言っていつも私を励ましてくれた。
優理の『大丈夫』が、大好きだった。
でも、私が中学2年生になったとき。
中学3年生の優理は言った。
「俺、蒼穹学園に行きたいんだ」
「えっ……あの蒼穹学園?目指すのはすごいことだけど、ここから遠いじゃん……」
優理と離れ離れになるの?
もう、会えなくなるの?
そう思うと、怖かった。
優理はそんな私の気持ちなんか気にもせず。
「遠いけど……俺、医者になりたいんだ。5年前くらいから思っててさ、医者になって、たくさんの人を救いたい」
5年前?
そんなに前から思ってたの、私知らなかった。
優理、私を置いていくの?
その一言がずっと言えなかった。
だって、言えるはずないじゃん。
優理が私の前で初めて言った、夢だったんだもん。
いつも優理は自分のことそっちのけで、わがままなんて言ったことなかった。
その分、私のわがままはよく聞いてくれてたなぁ。
なんて思い返してみたり。
「そ……っか、私、応援してるよ!」
優理の顔が見れない。
「……うん、ありがとう」
その日は自分の部屋で、大声で泣いた。
家がお隣の優理に、聞こえてないかな……?
頭の中では気にするけど、声は抑えられなかった。
そんな日々が続いて、気づけばもう3学期。
「じゃ、詩乃。行ってくるな」
優理は受験しに、少しの間だけ遠い所へ行った。
「う……うん、行ってらっしゃい、優理!絶対受かってくるんだぞ〜!」
「任せろっ!」
笑顔で手を振った。
受験のための2日会えないだけで、私はこんなに苦しいのに。
蒼穹学園に行ったら、優理と3年も会えなくなるんだよ?
そんなの、耐えられない……っ
それでもやっぱり、優理の夢を応援した。
だって優理のこと、好きなんだもん。
2月25日、優理が玄関から勢いよく入ってきて、私を抱きしめた。
えっ、えっ………。
私結構モテるくせに、ずっと片思いしてきたから、慣れない状況に少し期待してしまう。
でも、優理は私にこう言った。
「詩乃!俺、受かったっ!それもAクラス!医者に、なれるかもしれない……!」
あ……そう、だよね。
そんなはずない。
なに期待してんだろ、私。
「え、え〜……っすごいじゃん優理!おめでと〜!……」
心の中では、優理を引き止めたい気持ちでいっぱいだけど、私は今日も嘘をつく。
溢れそうな涙を抑えて。
その日は優理の家でパーティをした。
笑うのって、こんなに大変だったっけ?
そしていよいよ、優理が遠くへ行ってしまう日がやってきた。
「まぁ、夏休みには帰ってくるよ」
「………うん」
行ってらっしゃいなんて、言えないよ。
「またな、詩乃」
「………うんっ」
涙ぐんでるの、絶対優理にバレてるじゃん。
そう思っていたら、もう優理は数メートル離れたところにいて。
「ゆう、り……っ」
行かないで、行っちゃやだよ。
溢れる涙を何度も両手で拭っていると、
「詩乃ーーー!!」
って優理に呼ばれたから、バッと顔を上げた。
すると優理は、眩しい笑顔を浮かばせながら言った。
「大好きだぞーーー!!」
「っ……!」
大好きって、え、そういう大好き?
ち、違うよね、そんなはず……。
そう思いながら瞬きをしてもう一度優理を見ると……
愛おしそうに、私を見ている気がしたから。
どっちなのか、分かんないよっ……。
気づけば優理の姿はどこにもなくて。
悲しかったけど、私はその時強い意志をもって決めた。
私、蒼穹学園に行って、あの『大好き』の意味を、優理に確かめる。
そこから猛勉強をした。
私の成績は中の上くらい。
頑張っても行けるかどうか危ういところ。
でも、両親に頼んで塾にも入れてもらって、中学3年の3学期になったときは、学年で……いや、全校生徒で1番くらいの成績になっていた。
私をこんなに動かした優理のあの言葉。
私の好きと同じ好きじゃなかったら、蹴り飛ばしてやるんだから。
そしてやってきた合格発表の日。
うわ、こんなに緊張するんだ……。
スマホの画面と、かれこれ30分にらめっこしている。
ひどくゆっくり感じられた30分だった。
合格発表がされる時刻になり、そこに映っていたのは……
『合格』
の文字だった。
「……え、ちょ、お、お母さん!お父さん!受かったんだけど!」
これで、優理に会える、同じ学校に通える。
それが何よりも嬉しかった。
優理に電話で伝えて、とても褒められた。
優理は知らないでしょ、優理のあの言葉の意味を知るために、ここまで頑張ってきたなんて。
そしてその約2週間後。
優理から生徒会書記に選ばれたと電話があった。
優理が、生徒会………大変かもしれないけど、会えるよね?
そう思いながら迎えた入学式。
体育館の隅の方に、他の生徒会の人達と座っている優理の姿が見えた。
注目しなければならないのは壇上なのに、ずっと、私は優理を見ていた。
目は合わなかったけど、それでもいい。
今は会えただけで、十分。
学園では、小戸森優羽っていうめちゃくちゃ可愛い友達が出来て、楽しい毎日を送っていた。
Aクラスの出席番号5番。
このまま成績を維持出来れば、優理と同じ書記になれるから、そのドキドキもあった。
でも学園では中々優理に会えなかった。
もちろん全校朝会では優理を見かけたけど、直接は話せなかった。
それに優理のやつ無駄にモテるから、食堂で話す機会があっても、女子生徒のせいで近づけない。
もうっ、なんなの!?
想像していた日々と違って、いっそ電話で聞いてみようかと思った。
でもそれは、頑張って蒼穹学園に来た意味がなくなる。
だからどうしても、直接会って話したかった。
なんてモタモタしていると、1年の3学期がやってきてしまった。
いつになったら会えるの!?
待ち合わせは連絡すれば出来るけど、私はバッタリ会いたいのっ!
なんて変なこだわりがあって、優理と会えない日々にムカつきながら廊下を歩いていると。
「……詩乃っ!」
背後から聞こえてきた、私を呼ぶ声。
あ、待って、泣く。
「ま、待って優理、私っ……」
「詩乃、俺も……ちょっと、泣きそうかも……っ」
優理が泣いたところなんて見たことないから、思わず振り返ってしまう。
私とまた会えたから、泣いてるってこと……なの?
優理がそんなこと……ありえるの?
優理は溢れそうになる涙を堪えている。
「なんて顔、してるの……っ」
「詩乃だってそうだろ……っ?」
「ふふ、あははっ」
「あははっ、ふっ……」
2人で笑い合う。
私、今ならなんでも出来る気がする。
そして大きく息をすって。
「ねぇ優理、私、優理のことが好きっ!私と、付き合ってくださいっ!」
あの『大好き』が私と違う大好きでも、今なら怖くない。
私の言葉に、優理は幸せそうに涙を流して。
「っ……当たり前だろ、遅いんだよバカ詩乃」
「っ………!!」
私たちはお互い駆け寄って、ハグをした。
「優理が女子に囲まれてるからでしょっ?ずっと、話したかったのに……」
「ごめん。でも俺は、何年も待ってた。いつか、優理と付き合いたいって」
「えっ!?で、でも今までそんな素振り全然……」
「はあ?俺なりに結構アピールしたんだけど……?まさかあれ全部届いてなかったのかよ……」
「えっ、ご、ごめん……」
私って意外と鈍感かも……?
「でもま、よかった。詩乃が他の男と付き合ってなくて。詩乃と離れてた1年、ずっと不安だった。詩乃は俺がいないと何も出来ないから、変な男に騙されてないかとか」
「なっ、優理がいなくたって出来ることくらいあるし!それに私だってずっと優理のこと想い続けてきたんだから、優理以外の人に惚れるなんて絶対ないしっ」
「え……そう、だったのか?」
「そうだし!」
「の割には俺がこの学園行くって言った時、止めてくれなかったな〜」
「そ、それはっ、優理が医者になりたいって言うから……」
「ふっ、分かってるよ、詩乃が俺のこと応援してくれてたの……っていうか、詩乃いつから俺のこと好きだったんだよ?」
「わ、分かんない……そういう優理はどうなのっ?」
「俺も分かんね」
「もーっ、お互い分かんないじゃん〜」
「あははっ」
優理との何気ない会話でこんなにときめくとか、彼氏ってすごい……。
「いつの間にか好きになってたんだよな」
「ね!私も私もっ」
そこで、2人とも喋らなくなる。
「え……っと、会話ってどうするんだっけ。幼なじみで会話が途切れることなんて今までなかったのに……」
「……さあ、な。でもこれからはもう幼なじみじゃなくて……恋人、だからな」
「ふふっ、優理顔真っ赤〜」
「うるせっ」
優理に会うために蒼穹学園を受験した私。
これからは優理のこと、幼なじみ兼恋人として、いっぱい愛してやるんだから。
覚悟しててよね、優理っ!