地味子は腹黒王子に溺愛され同居中。〜学校一のイケメンが私にだけ見せる本当の顔〜

傷の癒しは極上の愛で。 聖那side










傷の癒しは極上の愛で。


聖那side


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ちょっとイタズラしただけで顔真っ赤にして困っている姿がたまらなく愛らしい、俺の大好きな人、小戸森優羽ちゃん。




学園長から渡された新入生名簿の中にその名前を見つけた時は、夢かと疑わずにはいられないくらい信じられなくて、嬉しかった。




俺は以前から優羽のことを知っていた。




だって、小学校が一緒だったから。




俺の家は財閥で、父の息子の俺はもちろん御曹司。




厳しく育てられた。




でも俺は弱音を吐かなかった。




外の世界を見たことがない俺は、それが当たり前だと思っていたから。




小学校も金持ちが集まるようなとこに入れられそうになったけど、家でなく学校でまで気を張ってないといけないのか、と初めて反抗した。




すると、母の協力もあり、父は普通の市立の小学校へ通わせてくれた。




問題だけは起こすなと言われていたから、大人しく誰の害にもならないように過ごしていた、3年のある日。




廊下を歩いていた俺より1つ下の学年の女の子が、チャックの開いたペンケースから消しゴムを落としていたから、拾ってあげた。




そしたら、俺がスカートの中を見ようとしたというめんどくさい勘違いをしたらしく。




まぁ、叫ばれた。




キャーとか、鼓膜を破る勢いの不快な声で。




それを見ていたその子と同学年の、性格が悪いと有名なガキがその話を広めた。




問題だけは起こすなと言われていたのに。




この話が父の耳に入ったら、学校をやめさせられるかもしれない。




そう思い、そのガキにもうこの話は広めるなと言ったら、




殴られた。




広めて欲しくないなら俺のパシリになれ、と。




俺にはその方法しか無かったから、惨めにも、年下相手に従った。




学年が違えば教室も違うから、俺はよく休憩時間にいじめられていた。




俺って、こんな弱い人間だったっけ。




もういよいよいじめに慣れてきていた頃、いつものようにアイツらが教室を尋ねてこなかった。




風邪でも引いたのか、ざまぁみろ、と心の中で数え切れないくらい悪口を言っていると、開いている教室のドアの向こうに、いつものガキの姿が見えた。




なんだよ、いるじゃねぇか。




今さっきまで最高だった気分が、最悪の気分へと変わる。




でもソイツらは、俺の教室の前を通り過ぎた。




不思議に思い見ていると、ソイツらはいかにも反撃してこなさそうな女の子の髪を掴んで引っ張っていた。




どうやら新しいおもちゃを見つけたらしい。




名札を見ると、どうやらアイツと同い年の2年らしかった。




あーあ、教室も一緒とか、かわいそ。




その時は、その程度にしか思わなかった。




だって、その時の俺には余裕がなかったから。




毎日毎日いじめられていた俺からしたら、同じ立場になってしまった子を助けたいという気持ちより、やっと開放された、という喜びが勝つのが当たり前だった。




でも、そんな気持ちは近いうちに変化することとなる。




翌日。




「………あっ」




よくゴミ箱に私物を捨てられていたから、今日は何も盗られたものは無いのに、クセで廊下にあるゴミ箱へ来てしまった。




もちろん、俺のものなんて捨ててあるはずない。




でも、そこには2年1組小戸森優羽と書いてある音楽のノートが捨ててあった。




小戸森って……今アイツらにいじめられてるやつだよな。




そういや、2年音楽室に向かってったな。




これ、今ごろ探してるんじゃ……?




これくらいは、してやってもいいか。




俺は正義のヒーローじゃないけど、アイツらみたいな悪いヤツでもない……と思う。




ノートをゴミ箱から拾い上げ、俺の教室の隣、2年の教室へ向かう。




中を覗くと、1人教室に残って何かを探している小戸森サンの姿が。




多分ノートを探しているのだろう。




俺は、父との食事中におかわりを言うとき以上に勇気を出して言った。




「あの……小戸森、サン。これ、ノート」




ノートを差し出しながら言うと、小戸森サンは頭の上にハテナを浮かべた。




もしかして、なんで俺が持ってたのか気になってるのか……?




俺は小戸森サンの前にアイツらにいじめられていたことと、おかげでついた迷惑なクセでゴミ箱へ行き、ノートを見つけたことを話した。




その話を聞き終わると、小戸森サンは俺を抱きしめた。




あまりの出来事に体が硬直する。




「なっ……何」




そう聞いても何も答えないからどうしようかと戸惑っていると、小戸森サンは俺を抱きしめるのをやめ、目を合わせてこう言った。




「ノートを見つけてくれて、ありがとうっ」




あまりの眩しさに目をパッと逸らす。




当時の俺に、それは眩しいからではなく、照れくさかったからなんて、わかるはずなかった。




「っ……次の授業に間に合うなら、良かったよ」




そう言って俺は教室へ戻った。




笑顔かわいかったな、なんて思っている自分に気づくのは、もう少しあとの話。




その出来事をきっかけに、俺と小戸森サンはほとんど人が来ない校舎裏の花壇で遊ぶ仲になった。




それなりに楽しい日々を送っていた。




約1週間後。




その日は、花壇の水やり当番だった。




いつもより10分くらい早く学校へ来て、水をやろうと花壇へ向かった。




すると、花壇の前に人影があった。




え、小戸森サン……?




水やりは俺たち3年の仕事。




なのに、なんであの子が花壇に?




しばらく様子を見ていると、その子は花壇に咲いている花を見ているのではなく、花壇の影に咲いているスミレを見ているのだと分かった。




そのスミレに向ける温かい眼差しを見た瞬間、なんとしてでもあの視線が欲しいという強い気持ちが俺の脳を支配した。




いじめられているのにあんな風に笑える彼女が、少し羨ましいとも思った。




「ねぇ、その花、そんなに好き?」




気づけば、俺は小戸森サンに声をかけていた。




急に後ろから声をかけられ、驚いたりするかと思っていたけど、彼女は俺の予想の真反対の反応をした。




「うんっ、大好き!」




「………!!」




俺は衝撃を受けた。




世界の醜さなんて知らないかのように、影ひとつなく輝くその笑顔が……




“俺”に向けられていたから。




俺が話しかけたんだから、俺の顔を見るのは当たり前のこと。




でもそうじゃない。




俺は今まで、財閥の御曹司という肩書きで見られてきた。




その他と言えば、アイツらのようにバカにした顔や、他の生徒の同情の顔で見られてきたから、いい気分にはならなかった。




でも小戸森サンは、そんなことどうでもよく思えるくらいの“笑顔”を、“俺”に向けてくれたのだ。




その日から俺は、優羽のことを気にせずにはいられなくなった。




スミレが好きな理由や好きな給食のメニュー、他にも愛のない会話をして過ごした。




優羽と一緒にいる時間が、唯一幸せを感じられる時間だった。




でも、その幸せも長くは続かなかった。




花壇での出来事があってから2週間くらい経ったある日。




アイツらに優羽といるのを見られてしまったのだ。




「変態と貧乏人が一緒に遊んでんだけど、やっば!」




「でもコイツらお似合いじゃねぇ?」




嘲笑いながらそう言ってくる。




幼稚にも程があるだろ。




俺より年下とはいえ、年は1つしか変わらない。




やることのしょうもなさに吐き気がした。




めんどくさ、と俺が優羽の手を取り黙ってその場を離れようとした時。




アイツは俺たちが煽りに無反応だったことが気に要らなかったんだろう。




優羽目掛けて石を投げた。




っ……やっていいことと悪いことがあるだろ!




優羽を怪我させるわけにはいかない。




だって俺は、優羽のことが好きだから。




そこで初めて自覚した。




………あ、俺、優羽が好きなのか。




優羽の可愛い笑顔、ちっちゃい手に汚れを知らない綺麗な瞳。




いつの間にか、優羽の全てを好きになっていた。




俺は初めて、人を庇って怪我を負った。




優羽は悲鳴をあげていたけど、どうやら怪我はしていないみたいだった。




こんな俺でも、優羽のことを守れた。




そこで初めて、俺は自分の存在を少し受け入れた。




心の底からよかったと思いながら、俺は意識を手放した。




目覚めればそこは家の近くにある大学病院の一室で、どうやら俺は救急車で運ばれたらしかった。




怪我は幸いそこまで酷くなく、3日ほどで登校できるまでになった。




俺はあの後の優羽のことが心配で、車を運転している執事に急げと言い学校へ向かった。




朝、いつものように花壇へ行くと優羽の姿があった。




「優羽っ………え?」




でも、優羽は俺に気づくなり顔を逸らして行ってしまった。




それは放課後も同じで、避けられているということに気がつくまで時間はかからなかった。




はっ……やっぱり、俺は正義のヒーローになんかなれやしないんだな。




悲しかったし自分をもっと嫌いになったけど、優羽のためにももう、接触を図ろうとするのはやめようと決めた。




でも、優羽のことは忘れたくなかった。




優羽と話す時間を失い、またからっぽになってしまった自分を満たすための何かが欲しかった。




そこで俺は、ずっと疑問に思っていることについて常に考えることにした。




その疑問というのは、どうしたら優羽みたいに人を大切にできるのか、というものだった。




俺には、あのスミレにあそこまでしてやる気持ちが理解できなかった。




だから、彼女と同じ気持ちを感じたいと思った。




そこから俺は、家の関係で婚約をさせられそうになっても猛反対して、あの優羽の優しい笑顔を思い出して耐えていた。




そして俺は、笑顔を振りまくようになった。




俺も優羽のように笑っていれば、あんなに愛おしそうに、傷ひとつつかないように大切にする、その原動力になっている気持ちがいつか分かるかなと思い、気づけば蒼穹学園の優等生、神代聖那にまでなっていた。




でも、いくら時間が経っても俺には理解できなかった。




もう、あれから7年も経ったというのに。




理解できないのは、多分これからもずっとなんだと思う。




なぜなら俺は、優羽のことを愛おしく思うけど、また会えたなら……




グチャグチャにして、俺なしじゃ生きていけねぇようにしてやると、思ってしまっているから。




1年の3月、俺は生徒会長になることが決定した。




そして新入生名簿の中に小戸森優羽の名前を見つけ、どうしようもない衝動に襲われた。




俺の優羽……早く、俺に会いに来て。




そして優羽たち新1年生の入学式の日、俺の前で優羽がコケた時は運命だと思った。




見た目は全然違うけど、確かにこの子は優羽だと、顔を見て確信した。




「あっ……ぴぎゅっ」




その声を聞いた時は、




可愛すぎ、マジなんなん?俺のこと殺したいの?




ってなった。




苦しいほど愛らしい鳴き声に内心悶絶しながら、優羽に手を差し伸べる。




すると、優羽は体を震わせて少しのけぞった。




優羽は、男性恐怖症になっていた。




まさか、小学校の時のことが原因なのか?




ああ、やっぱり俺はヒーローなんかじゃない。




守れてなんてねぇじゃねぇか。




内心そう自分を責めていたら、優羽が男性恐怖症でも、教室までの案内を俺に任せてくれた。




ああ、俺の大好きな優羽。




一生、俺だけを頼ってろな?




名前で呼ぶよう“お願い”したら、優羽は目線を逸らし顔を真っ赤に染めて。




「聖那……さん」




今すぐにでもその小柄な体を、骨が折れるくらい思いっきり強く抱きしめたかったけど、周りにいる男が多すぎたから我慢した。




生徒会長の“神代聖那”が抱きしめた女はどんなものなのかと、優羽に興味を示す男が増えてしまう。




っ………耐えろ、俺。




これから、徐々に距離を詰めていけばいい。




でも、優羽には幼なじみがいた。




入学式が終わった後、自分の部屋に優羽を呼んで、優羽をソファに追い込み、怯えと強い意志、そして慣れない“とある感情”が混ざり写っている瞳を見て思う。




この困るほど誘ってくる桃色の唇を塞げば、この瞳には何が写るだろうか?




そしてキスをしようと顔を近づけた時。




インターホンが鳴り、その幼なじみに邪魔をされた。




部屋に入ってくるなり優羽を抱きしめるソイツには、殺意が湧いた。




……まぁ、どうせ最後には俺の元へ来る。




そう、思っていたのに。




食堂で優羽と幼なじみクンに会った時、何かが違うと思った。




コイツら……なんかあったな?




理由を聞こうとしたら、優羽が近づいてくる生徒会の男のせいで体を震わせていた。




チッ、邪魔だな。




後で生徒会の奴らには言っておこうと決める。




それよりも優羽だ。




ここから出ねぇと。




でも、幼なじみクンが優羽のことを連れ出そうとしていた。




させるわけねぇだろ。




幼なじみクンよりも早く優羽を抱き上げ、保健室へ向かう。




“あの時”も思ったが……コイツ軽すぎ。




心配になるほど小さい体を震わせている。




その姿を見ていられなくて、足早に保健室へ向かう。




「黙ってろ」




そう言ってしまったのは、優羽が俺よりも幼なじみクンを頼ろうとしたことに対する嫉妬からだった。




それがまさか、優羽を泣かすことになるとはこの時の俺は思っていなかった。




優羽は顔を手で覆っている。




怖かったな……でももう大丈夫だ。




そう心の中で言っていると、保健室へ着いた。




1番奥のベッドへ優羽を座らせる。




でも、優羽はまだ顔を隠している。




「優羽、なんで顔隠すんだよ」




そう聞いても、優羽何も答えない。




優羽の顔がみたい。




そう思い、優羽の手を舐めてやった。




「ひゃあ!?」




優羽は可愛い反応をして、予想通り手を顔から離した。




やっと、優羽の顔が見れる。




でも。




優羽は泣いていた。




「お前なんで泣いて……さっきのことか?……あ、おい!」




優羽は、俺を置いて保健室から出ていった。




少しの間放心状態になった後、優羽を探しに保健室を出る。




そして、廊下の角を1つ曲がると、そこには幼なじみクンに抱きしめられている優羽の姿があった。




「っ………俺よりアイツの方が、いいのかよ……」




見ていられなくて、逃げるようにその場から離れた。




その後優羽と廊下ですれ違った時も、俺は優羽を無視して通り過ぎた。




俺に無視されて傷ついてほしいなんて、幼稚なことを考えて。




────────




時は過ぎ放課後。




今、生徒会の仕事のために生徒会長へ行く。




それなりに重い生徒会室のドアを勢いよく開ける。




生徒会メンバーはまだ誰もいなかった。




いつも、生徒会の仕事が始まるのは16時半から。




その時間まであと10分ある。




待っていると、1分ほどして、食堂の時いなかった皇瑠衣が、生徒会室の奥にある個室から眠そうに出てきて、他の生徒会メンバーもそこから5分も経たないうちに集まった。




「単刀直入に言う、お前らあの子に近づくな。特に男は。分かったな?」




ちなみに、生徒会メンバーは俺の本性を知っている。




生徒会メンバーは、短すぎる説明に頭の上にハテナを浮かべる。




「おい聖那、それだけじゃ分からない。ちゃんと説明しろ」




と副会長の時雨が言う。




「あの子は男性恐怖症だ。さっきお前らが近づいてきたから震えてたんだよ」




「い、いやでも、聖那が抱きついててもあの子は大丈夫だったじゃない、どういうこと?」




と同じく副会長の成川が声を上げる。




「俺と……なぜかあの幼なじみは大丈夫なんだよ」




すると、書記の乃蒼が幼なじみという単語に反応する。




「あっ、そういえば僕、あの子の噂聞いたよ?」




……優羽の噂?




「あの子とその幼なじみの子、今日の朝キスしたんだって!」




………は?




「しかも教室の中で!すごいよね〜……って、あれ、聖那?」




俺は乃蒼の言葉を最後まで聞かずに、生徒会室を飛び出した。




優羽が誰とキスしたって?




そこでふと、食堂での優羽が頭に浮かぶ。




……!だから様子がおかしかったのか……っ




抑えられないほどの嫉妬が、俺の足を動かした。




全力で寮へ向かい、002と書いてあるドアを思いっきり開ける。




椅子に座っている優羽を引っ張り、細い手首を強く掴み、壁に追い込む。




「聖那さ……痛っ、んっ……」




そして、乱暴にキスをする。




なんでアイツとキスしたんだ。




なんで、なんで、なんで。




ああ、優羽可愛い。




優羽は俺のなのに。




愛してるよ、優羽。




ほんと、優羽も悪いコだ。




俺以外のヤツのキスを許すなんて。




俺に溺れて、どうにかなればいいのに。




嫉妬と愛しさで、頭がおかしくなりそうだった。




「だめ、っ……ふ、んっ……」




「優羽は俺の。だよな?」




あんなことするんなら、もうこの部屋から出してやれねぇんだけど?




俺を、もっと求めろ。




キスを続けて10分。




俺はキスを止めた。




「せ、な……さん?」




壊れかけている優羽に微笑みながら聞く。




「なんでアイツとキスしたの?」




優羽はその質問を聞くなり、すぐ正気に戻った。




「あ、あれは……急に、牙央くんが……っ」




「名前言わないで」




「ごめ、なさ……」




「うん、じゃ次。保健室で泣いてた理由は?」




「あ、れは……っ」



優羽が言葉に詰まる。




「言え」




優羽の体が震える。




怖がらせすぎたか?




でも、どうしても知りたかった。




俺が泣かしたんなら、尚更。




「聖那、さんに……黙ってろって、言われたのが……悲しくて……っ」




「あ………」




俺が泣かしたのか、最悪だ。




「あれは優羽が俺よりアイツを頼ろうとしたから……」




その言葉に、優羽は目を丸くする。




「……え、それって嫉妬、ですか?」




「ん、そうだけど」




すると、優羽は顔を赤く染めて、目線を逸らす。




ああ……可愛いなぁもー……




そのあまりの可愛さに、アイツとのキスなんてどうでもよく思えてきて。




軽くおでこにキスをする。




「〜〜っ……聖那さん……っ」




「さっきまでいっぱい唇にしたのに、おでこで赤くなってんの?」




そうからかうと、優羽は俺の手の力が弱まった隙を見てキッチンへ逃げた。




ふっ、猫みてぇ。




「なぁ優羽、俺とアイツ、どっちが好き?ちなみに俺は、す〜……っごく優羽のこと愛してる」




「な、なっ……」




ふっ、この質問はまだ早かったか。




そう思い、今日のところはキスで観念してやることにした。




それはそうと、幼なじみクン……







やってくれたな?



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