地味子は腹黒王子に溺愛され同居中。〜学校一のイケメンが私にだけ見せる本当の顔〜
消えないトラウマ
消えないトラウマ
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聖那さんと……き、キスで仲直りをしたあの日から1ヶ月が経過した。
まだ聖那さんと牙央くんの睨み合いはあるものの、平穏な日々?を過ごせている。
聖那さんが私に「黙ってろ」って言った理由が、嫉妬したからだったのは……
ちょっと嬉しかったかも、なんて。
あっ、そういえば嬉しい出来事があったの!
聖那さんがね、朝はもちろん、夕食も毎日私の手作りを食べてくれるくらい、私の料理を気に入ってくれたみたいなのっ。
1ヶ月前はもう食べてくれないかと思ったけど、なぜかキスしたあとの聖那さんは上機嫌で、あの大量の料理を全部食べてくれたんだっ。
そういえば、最近は牙央くんも私の手料理を食べに、聖那さんのお部屋を毎晩7時に訪れてくるの。
牙央くんの前で聖那さんに
「今日のお夕飯は何がいいですか?」
って聞いたら……
「は!?俺も優羽の手料理食べたい!」
ずるいって駄々こねちゃって、私の説得もあって、最後は聖那さんが根負けしたの。
2人のやり取りを見てたら思わず笑みが零れてくる。
この前も……
「………え、俺のだけど」
「は、俺ん家の食材で俺のために優羽が作ってくれたんだけど?」
「はあ?」
そう言って残り最後の唐揚げに2人の箸が重なっちゃって、睨み合いスタート。
ういつまで経ってもお互い譲ろうとしないから私がじゃんけんを提案したら、見事牙央くんの勝利。
「チッ………」
「おい優羽!今コイツ舌打ちしたぞ!ほんと腹黒いな、生徒会長なのに」
「は?関係ないだろ?」
って、2人がまた喧嘩を始めちゃって。
唐揚げ1つのためにこんなに必死になる2人が可愛くて笑っちゃうんだよね。
でも私が笑ったら、なぜか2人とも顔が赤くなるの。
「ふふっ、そんなに唐揚げ欲しかったの?」
「っ……一緒に住んでんの羨ましいし今すぐやめてほしいけど、これに毎日耐えてんのな、アンタ」
「そうだよ……いつも理性と戦ってんだこっちは」
そして2人は握手していた。
何があったのかは分からないけど、喧嘩が収まったからいっか、で終わったの。
そんな楽しいお夕飯の時間。
今日はその時間も過ぎ、今は夜の8時半。
その時既に、牙央くんは自分の部屋、003号室にもどっていた。
聖那さんはお風呂に入っていて、私は今日の授業の復習をしていた時、ことは起こった。
フッ………と、電気が消えた。
さっきから外は豪雨で天気予報では記録的な大雨だって言っていた。
そして、外で雷が鳴る。
暗闇と雷。
私はそれが大の苦手だった。
それも、“あの人”に初めて手を挙げられた日に、部屋の電気は消えていて、雷がなっていたから。
トラウマがフラッシュバックしてくる。
呼吸が乱れ、体が震える。
『酒を持って来いって言ってんだろ!?泣くなようるせぇな、このクソガキが……!』
あのおぞましい声が、頭に大きく響く。
「はぁっ……はあっ……いや、嫌だっ」
お母さん死なないで……っ
お母さんを殺したも同然の、父の大きな拳が降り掛かってくる。
空から今までで1番大きな雷の音がなる。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
私はぐったりソファにもたれかかる。
朦朧とする意識の中、ドタドタという音が聞こえてくる。
「優羽っ!?」
聖那さんが、私の悲鳴を聞いて来てくれたのだ。
聖那さんの髪はまだ濡れている。
暗くて周りがよく見えないのに、急いで来てくれたのかな……?
聖那さんが来てくれても、まだ私の息は荒い。
「はぁ……はぁ……」
「優羽、優羽っ。どうした、何があった!?」
聖那さん驚かせちゃったな……。
聖那さんは私の体を優しく抱きしめて、背中を優しく撫でてくれる。
「おかあ、さっ……はぁっ」
「大丈夫だ、落ち着け。優羽、俺だ。聖那がいるから……っ」
聖那さんの声が少しだけ震えている。
聖那さん、心配しないでください。
私は大丈夫ですから……だから、
そんな不安そうな顔しないで?
暗闇でも分かった。
聖那さんは今泣きそうな顔をしていると。
彼の不安を拭ってあげたい。
なのに、私の震えはもっと強くなるばかり。
すると、聖那さんが私にキスをした。
「っ………はぁ……」
あれ、なんか……落ち着いた?
「優羽……大丈夫、大丈夫だ……っ」
その言葉で、私は完全に落ち着いた。
「聖那さん………」
そう名前を呼ぶと同時に明かりがついた。
聖那さんの顔がはっきり見える。
……ふふ、聖那さん、酷い顔……。
少年のような泣き顔で、私を見つめている。
「ゆ、う……っよかった、俺、優羽に何かあったら、もう……っ」
いつも私にイジワルをしてくるあの聖那さんと同一人物とは思えないほど、か細い声でそう言った彼。
聖那さんの頬にそっと触れる。
「聖那さん、私は大丈夫ですよ」
「いやおかしいだろ、あんなに苦しそうに呼吸してっ………風呂にいる時リビングからお前の悲鳴が聞こえて、どれだけ心配したと思ってんだよ……っ」
ああ、この人は本気で私のことが好きなんだ。
それを自覚し少し緊張しながら、私は言った。
「聖那さん、少し……昔話をします」
そして、私は聖那さんに過去のことを話した。
父と、私をいじめてきたあの子のこと。
「……その子は私に向かって石を投げてきて、でも私と仲良くしてくれていた男の子が、私のことを庇ってくれて……私は無傷だったけど、その子は頭から血を流してて……っ」
聖那さんは聞いている途中、なぜかその私を庇ってくれた男の子について色々聞いてきた。
名前は覚えていないかとか、その子のことをどう思っていたか、とか。
「名前は覚えてなくて……ごめんなさい。でも、今思えば、あの子は私の初恋だったのかな……と思います」
「優羽は、その子にまた会いたいと思うか?」
また、会いたい……?
そんなこと。
「会いたいです。でも、合わせる顔がありません。あの子は、私のせいで怪我をしてしまったから……」
「……そ」
なぜか、聖那さんは少し辛そうな顔をした。
「今言うか……?」
「え?」
聖那さんは数秒間黙ってから言った。
「……いや、なんでもない。あ、でも……その子は、優羽の初恋相手になれて、幸せだと思う。絶対」
なぜそう言い切れるのか分からないけど、その言葉のおかげで少し心が軽くなった。
あの日からずっと背負っている罪悪感を、一瞬だけ地面に置いて休憩できた気がする。
「ありがとうございます、聖那さんっ」
「ああ」
聖那さん、なんだか嬉しそう……?
そう思っていると、インターホンが鳴った。
あ、もしかして牙央くん?
と外を確認してみると、やっぱりそこには牙央くんの姿が。
「雷と、さっき電気消えたろ、だいじょう……っお前、変装してなかったのか……」
「?うん……あ、そういえば寮で人にこの格好見せたの初めてかも」
この格好というのは私のもとの格好のこと。
聖那さんは見るの初めてだよね。
どう思われてるんだろう?
「っ……さっきはスルーしたけど、今は直視出来ねぇ……」
「俺も久しぶりに見たから、ちょっと……」
「えっ、そんなに変……?」
まさかそこまでとは……これからは変装したままでいよう、と決めた時。
「「いやめっちゃ可愛い」」
と2人が声を揃えて言った。
全然可愛くないと思うけど……そこまで言ってくれるなら、ちょっと自信持ってもいいかな?
「ふふ、ありがとうっ」
「っ、これは……変装させて正解だな。こんなに可愛いとか、聞いてねぇんだけど……?」
「だろ?優羽には変装させるべきだな」
えっ、もうどっちなの〜!?
そんなやり取りをしているところでふと思い出した。
「牙央くん、わざわざ来てくれなくてもよかったんだよ?電話で良かったのに……」
「いや、俺優羽に会いたかったし」
「っ……お、お夕飯の時会ったばっかりだよ……?」
牙央くん、今無自覚だったよね……?
それが1番タチ悪いよ……ドキドキしてるの、私だけになっちゃうじゃん……。
「好きなヤツとはいくらでも一緒にいたいもんだろ?」
そう言ってニッと笑う。
あ、これは自覚ありだな……?
「もう牙央く……」
「優羽のことは俺がしっかり守ってたから優羽は大丈夫。だからもう帰って」
と聖那さんが。
っ、まさかさっきのやり取り見られてた……?
まさかというか、隣にいたんだから見られているのは当たり前。
「あ、あの、これは……っ」
……ん?
私、なんで言い訳して……?
そこで、ある1つの理由が思い浮かぶ。
っ……いやっ、そんなこと……
ない、よね?
「なんだよお前偉そうに。何様のつもり……っ」
「生徒会長様、だけど?」
「っ……あーもーやっぱこんな男に優羽を預けてなんて置けねぇ!優羽、俺の部屋に来い!」
「え!?」
そして牙央くんに手首を掴まれる。
牙央くんの力はすごく強くて、玄関から足が1歩出る。
でも、私の足はすぐ止まった。
聖那さんがバックハグをして、私の体を引き止めたから。
「何ウチの姫連れてこうとしてんの?」
ひ、姫!?
初めてその呼ばれ方をされて、顔が火照ってくるのが分かる。
「は、俺の姫だし」
「も、もう2人とも終わり!」
「「なんでだよ?」」
2人とも口を揃えて言う。
なんでって、分からないの!?
「だって……は、恥ずかしいじゃん……」
「「………」」
今度は2人とも無言になる。
え、えっ、なんで無言になるの!?
そう思っていたら。
「っ……もう俺死ねる」
「っ優羽?それ、マジやめて……」
「ちょ、ちょっと2人ともっ。死んじゃだめだし、それってなんですか!?」
私があたふたしていると、2人は突然笑い出す。
むぅ。
「もう知りませんっ。私はお風呂に入ってきますっ!」
「え〜、まだ話そ、優羽?」
「優羽、まさか俺と一緒に風呂入りたくて言ってんじゃ……」
はあっ!?
「違いますっ!もう2人とも知らない!」
そう言って自室へ戻った。
2人して私をからかって……絶対許してあげないっ、ふんっ。
そう強く思っていたのに、翌日、スイーツにつられて……
「じゃあこのスイーツあげるから俺らのこと許してくれる?」
「うんっ!………あ」
簡単に許してしまうとは、この時の私は思ってもみなかった。