キミの正体 ~実は独占したがり超絶オオカミでした~
肩に掛かっていた髪がスーッ、と優しく葵くんの手によってすくい上げられる。

急な接触にびっくりして後ずさると慣れないヒールも相まって大きくグラン、と視界が揺らいだ。

やばい……っ、コケる……!

と思ったけどすぐに引き寄せられるように抱きしめられた。

あぁ……っ、私ってなんでいつもこうなの!?

なんかいつも意図せず、不本意に葵くんの腕の中に収まってしまっている気がする。

全部私の不注意だから仕方ないけど!

「先輩は、いつもそそっかしいですね」

そう言ってエスコートするように私の手をとった葵くん。

やっぱり全ての動作が計算し尽くされている気がする……。

背中を支えられていた手がスっと離れていく。

あれこれ手馴れた所作で私から優しく身を離すと、「男と会うんじゃないか、と思いました」と言って視線を落とした。

え……?

釣られるように私を視線を落とす。

きっとこんなセリフ…、彼氏なんかに言われたらとっても嬉しいはずだ。

ただこの男の口から出た、という事実がやけに嘘っぽくさせる。

「だったとしても葵くんには関係ないでしょ…」

嘘……なのが嫌なのかな。私…。

つい拗ねるようにそんな言葉を口走ってしまう。

でも……何を言ってもきっとこの男には、かなわない。
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