キミの正体 ~実は独占したがり超絶オオカミでした~
「ありますよ。僕だって……先輩のこと好きなのに…。ヤキモチぐらい妬かせて下さい……」

どこからか子犬の鳴き声が聞こえてきそうなほど、か弱そうに震える声が頭上から降ってきて心臓の奥の方がキュッ、と締め付けられる。

「…っ、またそうやって……」

呆れてるふうを装って腕を組むので精一杯だった。

すぐに葵くんから目を逸らす。

こんなの……、ある種の言葉の暴力じゃん。

「あの……、先輩が僕への嫉妬で狂いそうになっちゃってるみたいなのでお教えしますけど、あれは母ですよ?」

「え?」

「ですから、朝先輩が見掛けた人。あれ僕の母です。朝、僕にちょこっと会いに来ただけですよ」

え……?

歩き出した足がピタリ、と止まる。

「…………でもキスしてたじゃん」

「先輩のお母様は先輩にキスなさらないんですか?」

「しっ、しないよ…っ、だってもう高校生だもん……っ」

「そうなんですね、うちの母、まだ子離れが上手く出来ていないので、久しぶりに会った時なんかはあぁやってほっぺに軽くキスしてくるんですよ」

至って当たり前のことのように言われたけど葵くんの家ではもはや常識的な感じなのか…?

「そう……なんだ…」

「はい。ですから嫉妬なんてしなくていいんですよ?」

「…っ、」

ホッ、としたはず。
< 106 / 160 >

この作品をシェア

pagetop