キミの正体 ~実は独占したがり超絶オオカミでした~
こんな男に嫉妬なんかする必要ない。

感情の一端を置く必要なんて微塵もない。

こんなクズ男の沼にハマって抜け出せなくなっちゃうぐらいなら……、早いうち、葵くんのことなんて嫌いになればいい​───────…

諦めにも似たような感情が心の重荷をスっ、とどけてくれたような気がした。

でも……

「信じてたのに!」









ーーグサッ………







え………?

直後のこと。

私の足元にドサッ、と葵くんが倒れて、赤いものがじんわりと地面に広がっていった。

え…、なに……何が起こっ​────

カチャン、と音を立てて女の子の手元から何かが落下する。

……ナイフだった。

嘘…。

え……

「ぅっ……、」

苦しそうに漏れた葵くんのうめき声に頭が真っ白になる。

女の子がこの場から走り去っていく姿がぼやける視界の隅に写った。

「あおいくん……? え、うそ…っ、大丈夫!?」

真っ白なシャツがどんどん赤く染っていく。

刺されたんだ……っ、どうしよう…っ、

早く止血しないと……!

「そうだっ…、救急車…っ、救急車呼ばないと……っ」
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