キミの正体 ~実は独占したがり超絶オオカミでした~
「ちょっと見に行こ!?」

「えっ……、あっ、ちょっ……!!」

油断も隙もない。

いつの間にか部活に行く準備を全て整えていたらしい千紗は私の腕を掴んで教室から引きずり出すようにして引っ張った。

そして抵抗する間もなくたどり着いたのは1つ下の階にある1年1組の教室。去年まで私たちが在籍していた教室だ。

「キャー!葵くんー!こっち向いてー!」

「かっこいいーっ!!」

え、まって。なになに。なにこれ。

目の前に広がる光景に腰を抜かしそうになる。

そこはまるでアイドルの出待ち、と化していてひっきりなしに黄色い声やスマホのシャッター音が飛び交っていた。

入る余地がないぐらいに人がみっしりいて、人酔いしそうになる。

大半は目をキラッキラに輝かせた女の子だ。

正直色恋には一切興味のない私。

もちろん相手が御曹司だろうが、超人気アイドルだとしてもそれは変わらない。

しかしそんな私の心情はつゆ知らず千紗は人混みなど諸共せずに手早くかき分け、前へ前へと前進。

イケメンをひと目見るための努力は惜しまない、の精神がひしひしと伝わってくる。

そして千紗に未だ腕を掴まれている私も巻き添えを食らう……。

「キャー!かっこいいー!葵くーん!」

「指ハートしてー!」

「投げキッスしてー!」

もはやライブでしか聞かないファンサを求める女の子たちの声にただただ圧倒される。
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