キミの正体 ~実は独占したがり超絶オオカミでした~
目尻から涙がスー、と頬を伝ったその時。

「……おい」

ドスの効いた低い声が激しい店内BGMに紛れて廊下に響いた。

知らない声……。

だけど震えていて怒りに満ちているようなそんな声だ。

立て続けにグハッ、と、殴られるような音が響き、私の体から重みが去ってゆく。

なにごとかとゆっくり目を開けるとすぐそばでさっきの彼が「いってぇ……」と痛々しい声を発しながら倒れていた。

「……んだよ、テメェッッッ!!!」

「あ? なにビビってんだよ? かかってこいよ?」

目の前で巻き起こる惨劇に目をつぶって、身を縮こませた。

でも、次に目を開けた時にはさっき私にベタベタと触っていた彼は壁にペタリ、と身を預け口の端から血を流していた。

失神しているようだ。

助けて……くれた??

後からやってきた細身の人影を凝視して私は体を起こす。

誰かがそこにいることは確かだけど未だ目眩が酷くてピントが上手く合わず顔がよく見えなかった。

だけど男1人を一瞬で倒しちゃうぐらいだからきっと強い人だ。
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