キミの正体 ~実は独占したがり超絶オオカミでした~
コツンコツン、とゆっくり歩いてくる足音に肩を竦ませ、私は怯えるように壁に寄り添った。

ゆっくりと頬に暖かい手が触れる。

「大丈夫ですか」

それは、さっきまでの怒りに満ちた声なんかじゃなく、優しくて落ち着くようなそんな声だった。

そして、この声を……

私はよく知っている。

「…っ、なんで……っ」

助けてくれた彼の顔にゆっくりとピントが合う。

「あおいくん…っ」​

少し視線を落とした葵くんはぐちゃぐちゃにはだけてしまった私の服をチラリ、と見ると迷うことなく自身の上着を脱ぎ、それを私の肩にフワッ、と掛けてくれた。

「先輩の下着見ていいのは僕だけですから」

まだ葵くんの体温が染み付いていてその温もりを境に途端に安堵感に包まれた。

心臓のバクバクがだんだん穏やかなものに変わっていって震えていた体が正気を取り戻していく。

安心したからか急に体の力が抜けて、葵くんに身を任せるように抱きついてしまった。

張り詰めていた糸が解けていくかのように一気に表情が崩れていく。

つい葵くんの胸に顔を埋めてしゃくり上げるように泣いてしまった。

「怖かった……っ」

こいつから逃げるように、家を飛び出したのに…、なんでこうなっちゃうんだろう。
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