PRECIOUS DARK NIGHT
プロローグ
その日はこの年の中で、1番寒かった。
引っ越し用の大きなシルバー色のキャリーケースを引きながら、歩道を歩く。
喧騒はどこか遠くから聞こえ、私が今いる場所は人1人いない。その人気のなさが、不気味さを連れてくる。
ガラゴロ、ガラゴロ……。
キャリーケースの小タイアが凸凹のアスファルトに引っかかって、嫌な音を立てていた。
遠い県から、この街に引っ越して来た私には、まだここでの土地感がない。
だから、スマホのマップを頼りに行き先までの道程を歩いている。
……つもり。
私立・翡翠学園に今年の冬、編入した私は、今その学園に併設された学生寮に向かっているんだけど……。
それがなぜか、いくら歩いても中々辿り着かない始末。
私って、もしかして方向音痴だったりする?
「詰んだ、のかもしれない……」
人生終了の音が、リーンゴーンと頭の中で鳴り響く。
ここどこ?って思うくらい、高層ビルが建ち並ぶ光景に、ただただ呆然とするしかなかった私は。
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