PRECIOUS DARK NIGHT
トンッと私の両肩に手を置いたかと思うと、くるりと体の向きを変えられて。
弱い力で背中を押された。
「そっ、そうなんですね……!わざわざ親切にありがとうございます!」
視線が後を追ってくるのが分かったけど、なぜかここに長くいちゃいけない気がして、気持ちが急く。
「ねぇ、君───」
背後から聞こえたその声に、私の足がピタッと止まる。
私の両足は機能を失ってしまったように、ぐっと低くなった男の子の声に支配される。
こんな感覚は初めてで、途端に得体のしれない恐怖が私を襲う。
「な、なんですか……っ?」
「ここにはもう2度と来てはいけないよ。絶対に」
語尾を強調した彼は、冷たい視線を私に投げてから、身を翻して奥の廊下の闇へと消えていった。
素早くこの建物から出た私は、すぐに不良クンの元へと向かう。勝手に出歩かれでもされていたら大変だ。
彼はこの翡翠学園の生徒でも何でもないんだから。
急いで走って来たせいで呼吸が乱れている。
ふぅっと深く深呼吸してから、誰にも気づかれないように彼が身を隠している茂みの中へ顔を覗かせた。