PRECIOUS DARK NIGHT
「そうなんじゃない?」
その否定疑問文が、ここまで不気味に聞こえたことはないよ。ただ、今はっきりとしたのは、
私は今すぐにここを去るべきだということ。
この人は、どこか危険だ──。
「わ、私……っもう行かなきゃなので!」
しゃがみ込んでいた私は、すぐさま立ち上がって彼から離れた。
地面に横たわった彼の虚ろな瞳が、真っ直ぐに私を射抜いている。
「助けて」とでも言われているような縋る視線から、私は目を逸らした。
そして、そこから逃げ出そうとしたその時───
「……待て」
地面から這い上がるようにドスのきいた低い唸り声に、私は金縛りにあってしまったと言っていいくらい、体が硬直した。
まるで、その人の声に体の機能が支配されてしまったかのよう。
その声だけで相手を制圧することができるのか、この人は。