PRECIOUS DARK NIGHT
怖そうな見た目をしているこの人も、こんな風に人懐っこく笑うんだって思ったら、図々しいかもしれないけど少し親近感が湧いた。
「……、とりあえずタクシー呼びますね」
彼の予想外な反応に、どう言葉をかければいいか分からなくなった私は、スマホを片手にそう言う。
「…くくっ、ああ」
……意外とツボが浅いのかな?
近くのタクシー会社に電話をかけながら、私はそんな風に思った。
それから少ししてタクシーが私たちのいる通りに到着した。大きなキャリーケースを積み込んでもらい、優しそうなおじいちゃん運転士の人と協力して名前も知らない不良クンを車内に入れる。
彼は終始申し訳無さそうに眉を下げていた。
「……悪いな、こんなことまでさせて」
私が着ていたコートを羽織った彼がもう何度目か分からない謝罪の言葉を口にする。
コートのおかげで、服についた大量の血は隠されているから、難なくタクシーにも乗れたのはいいけど……。
「おい、聞いてるのか」
深く考え事をしていた私の顎を突然柔く掴んできた。
自分の方へ私の顔を向かせ、不機嫌そうに口を結んでいる彼を見て。