パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「紫衣…?」

「美月っ!」

購買でパンを買って来た美月がみんなが注目する真ん中に私がいることに気付き、眉をしかめながら私を見てる。

「えっと…」

「私何もしてないよっ」

すぐに否定しようと思った、美月には。

でも困惑する美月の表情は…


迷ってた。


そう、だよね…

みんなそんな目で私を見てるもんね。

美月だってそうだよね、そうなっちゃうよね…

私が何言っても敵わない。

みんな柏木先輩を信じるから。

どうしよう、悔しい…っ


「弟知ってんのかな?」

知ってるも何も違うもん!


「裏切られてるの早く気付いた方がいいよ彼氏」

裏切ってない!
裏切ってるのは柏木先輩の方だよ!


「柏木先輩好きな痛い女だな、こんなことしてー…」

みじめで悲しい、ここで泣いたら負けなのに…

泣いたら…っ



「紫衣がそんなことするわけねーよ!」



この感じ何度目だろう、後ろからガバッといつもの腕が私を包んだ。



「紫衣は俺のだ」



でもいつもより優しくて、胸が高鳴った。


「ふざけんなよ、紫衣は裏切るだなんて絶対しねぇから!」


耳元から聞こえる声に心が安らいで、そんなこと思ったことなかったのに。

どんどん人は集まって来て、さらに注目を浴びることになった。

柏木先輩は無表情でこっちを見ていた。

「…いやいやいや、そんなこと言ってるけど騙されてんだよ自分?やめたほっ」

「騙されてねぇよ!」

誰だか知らない人が言った言葉に噛みつくように言ってくれた。

誰も味方はいないと思ってたのに、私には。

「紫衣に何かしたらただじゃおかねぇからな」

低い声を廊下に響かせ睨みつける。

抱きしめた腕からするっと手を握り、手を引いて歩き出した。

まだコソコソ声は聞こえていて、たくさん嫌な言葉が並べられていた。


でも、もう何も聞こえないよ。



だって私にはケイの言葉がすべてだよ。
< 112 / 181 >

この作品をシェア

pagetop