パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「俺はそんな存在だからいいんだよ」

いつもと変わらない様子ではぁっと息を吐いた。

でも次の瞬間、グッと目に力が入って鋭く尖った。

「俺は彗を守れたらそれでいい」

「…っ!」

久しぶりに睨まれた気がした。 

そんな風に睨まれたら怖かったんだけどなぁ、今は全然怖くない。


それはケイのことを知ってるから。


「じゃあどうしていつもミントのガムを噛んでたの?」

「は?」

おいしくもないガムなんて、わざわざ買ってまで食べようなんて思わないよ。

何を思いながらそんなガム噛んでたの?

“部活で悩んだ時とかよく食べるよ、ストレス解消にいいんだって “

「スッキリしていいって言ってたよね!?それって逃げたかったからじゃないの!?」

静かにしなきゃいけない図書室で部屋中に響くくらい叫んじゃった。

でもケイは何も言わなくて。

「ケイに逃げる場所はないの!?」

息を吐くだけだった。

「…帰るぞ」

ケイが荒々しくリュックを持って片方の肩にかけて、図書室から出ようとする。

あとちょっと、陽が沈んで真っ暗になっちゃう。陽が沈んで…

「私だって彗くんを守りたい」

ケイの背中に呼びかける。

「彗くんが悲しんでたら私も悲しいし苦しんでたら救ってあげたい、彗くんにひどいことしてる柏木先輩のことは許せないよ」

感情が高ぶって上手くコントロールができない、私の方が泣いてしまいそうになる。

絶対泣きたいのは私じゃないのに、泣きたいって思ってるのは私じゃないのに。

「でもケイだって彗くんなんでしょ?彗くんから生まれたんでしょ!?ケイも含めて彗くんなんでしょ!?」

ただただ叫ぶことしかできなくて。


「私はケイのことも守りたいよ!!」


陽が沈んじゃった。

薄暗かった図書室が真っ暗になった。

はぁはぁと必死に叫んだ分の呼吸を取り戻す私の方にケイがゆっくり振り返った。

「いらねぇよ、そんなの」

悲し気な顔をしていた。

どーせならもっと睨んでよ、そしたら…っ

「紫衣ならいいと思った」

「え…、何?」

「紫衣だったら、彗に悪いことは言わないって…そう思ったからケイ(おれ)は現れた」

そんな顔で笑おうとしないで。

「紫衣の前に」

寂しい顔しないで。

「だから何もいらねぇんだよ」

ケイのそんな顔見たくないよ。
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