パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「小村どうした?具合でも悪いのか、顔赤いぞ」

「いえ…、はぁ…あの…っ、ちょっと走って来たんで」

「そんなに急いで持って来なくても先生まだ帰らないぞ」

勢いよく飛び出した教室から走って向かった場所といえば、最初から目的地だった職員室で迷うことなく来ちゃった。

超運動音痴な私がここまで走って来るなんて、まず走って来れたことを褒めたいくらいだよ。

「小村提出…っと、お疲れ様。気を付けて帰れな」

「はい…」

ぺこりと頭を提げて職員室から出た。

やっば、久しぶりにこんなに走ったかも…体育でもこんなに走った記憶ないよ。プリント渡し終えたらドッと疲れちゃった。

すぅーっと大きく息を吸って深呼吸をする。

「……。」


戻らないと、教室に。


ケイが待ってる教室に戻らないと… 


でも気が重くて、足が動こうとしないの。


“彗のことは忘れろ”

頭の中でケイの声が繰り返される、何度も何度も聞きたくないのに聞かされてるみたいに。


本当にそう思ってるの?


ケイがそんなこと言うなんて…



ケイが言ったら本当にそうなっちゃうよ。



彗くんもケイも別の人だってことはもういーっぱいわかってる。

話し方も表情も仕草も好きなものも嫌いなものも違って、同じ人じゃないってことはよーくわかってるの。



だけど、彗くんから生まれたのがケイなんだよね?



ケイはどこまで彗くんのことを知ってるのかな… 




それとも彗くんが言ってるの?



彗くんはもう私のこと忘れちゃったの?



「ダメだ、またループしちゃう…!」

パンッと頬を両手で叩いてしゃんっとさせる。


戻ろうケイのとこに。


戻るんだ、それで待つんだケイと。



彗くんが帰って来るのを。
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