パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「なんだよ、何言ってんだよ…だから何なんだよ!!」

私の顎から手を離した。

「お前も所詮、変わらねぇな。じゃあお前にもわかりやすく教えてやるよ」

狂ったように目をギョロギョロさせて、掴んだ私の肩をぎゅっと潰すように握った。

「…っ」

さっきまでの比べ物にはならない力に痛みが走る。

顎を固定していた右手は大きく後ろに引かれ勢いよく突き出され… 


え、これは… 


無理無理無理無理っ!!!


さすが力は無理だよ、勝てない!!



やばい、殴られ…っ!!?



きゅぅっと目をつぶって身構えた。



―ガシッ

「…っ!」



柏木先輩のこぶしが飛んで来ると思った、でもそれより先に走って来てくれた。


「ケイっ」


寸前のところで止められた柏木先輩の右腕をぎゅっと掴んで、はぁはぁと小さく肩を揺らしていた。
そのまま静かに戻すように、掴んだ腕をグッと下ろした。

「そんな辛そうな顔してすることじゃねぇよ」

ケイがはぁっと息を吐いた。

柏木先輩は顔をこわばらせ食いしばった表情をして、ケイよりも息をするのが苦しそうで肩が上下に激しく揺れていた。


どうして、そんなに…


「紫衣、大丈夫か?」

「あ、うん!私は大丈夫…だけど」


なんで柏木先輩の方がそんな顔するの…

そんなの、ひどいよ。


彗くんはどうなるの、彗くんのことは…


「柏木先輩…」


私は許せないと思う、ケイみたいに優しくないから受け入れられないよ。


だからそんな顔見せないでほしいのに。


ダンッと壁を打ち付ける、私に向けて打つはずだった拳を。

「…クソッ」

そこにはもう“優等生”な柏木先輩はいなくて、ただ自分の感情をあらわにする柏木先輩の姿だけ…

何度も何度も壁を殴るように打って。

「やめろっ、おい!」

「…っ」

「何してんだっ」

ダンダンと鈍い音が廊下を揺らすように、ケイが止めようとしても無心で打ち続ける。

「やめろよ!」

「……。」

「おいっ!」

「…。」

「やめろ!!」

「…んだよ、離せよ」

コンクリートでできた壁は硬くて冷たいのに。

「離せっ!!!」

柏木先輩の悲しい叫び…

「やめ…っ」


「柏木先輩!!!」


柏木先輩の手を掴んだ。
打ち付けようとしていた拳を、何度も打ち付けたせいで血が滲んだ拳を…きゅっと握った。
< 163 / 181 >

この作品をシェア

pagetop