パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「柏木先輩はすごいと思います」


上を向く、柏木先輩を見るために。


“本当すごいよね、いっぱい努力してるんだろうね”

“すごい人なんだなって尊敬するよね”



きっと柏木先輩も必死だった。



お母さんの期待に応えるのに一生懸命勉強して、優秀な生徒演じて、そのために捨てたものもなくしたものもあったかもしれない。


そんな自分を1人だって感じちゃったんだ。



柏木先輩もきっと、ずっと誰かに助けてもらいたかったんですよね。

1人じゃないよって、誰かに。



「成績優秀だし先生からの信頼も厚いしみんなに慕われてるし、人気者だし…」

苦しそうにする柏木先輩の顔が私を見てる。

だからすぅって息を吸って、まっすぐ見たんだ。


「それは全部本当のことです」


それは作られた物でもなくでっち上げられた偽物でもない、今までの柏木先輩が積み重ねてきたこと。


「柏木先輩の努力のたまものですよ」


それは嘘じゃないです。

正真正銘、柏木先輩のものです。



だから彗くんにとって自慢のお兄ちゃんだったんだよね。



「何言ってんだよ、なんだよっ、何で…っ」

私が握った手とケイに掴まれた腕を振り払った。私もケイも静かに離した。

顔をゆがめた柏木先輩の瞳からはぽろぽろと涙が流れ、離された手で拭いながら俯いた。

「何でお前に言われなきゃなんねぇんだよ…!」

簡単には止められない涙を、声を殺すみたいに泣いて。


そんな姿をケイは何も言わずただ見つめていた。
< 164 / 181 >

この作品をシェア

pagetop