パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
さっきまで威勢を張っていたリタがみるみるおとなしくなって、うなっていた声もクゥ~ンと甘えた声を出し始めた。

リタもそんな声出すんだ、そんな声聞いたことなかったから知らなかった。

だって私たちの前ではうなったり吠えたりばっかで、だけどそうさせていたのは私たちで。リタのことが怖いからリタにも怖い思いさせちゃってたんだけど…

“ししし、紫絵ちゃん!おちっ、落ち着こうね!!”

あんなに焦ってた彗くんが微笑みながらリタをなでてる…


なんだか天と地が入れ替わったみたいで、大袈裟かもしれないけどそれくらいのことなの。

だって私はずっと犬が怖いから、そう簡単には触れられないよ。


「……。」


そっか、だから違和感だったんだ。

私が感じてたのはそれだったんだ。


強い口調で話すのも、鋭い目つきで睨むのも、強引に私を抱きしめたのもあまりに知らない彗くんでびっくりした。

でもそれは私が知らなかっただけで、それも彗くんだったのかもしれない。


だけどね、どこか消えずにいた違和感はどんどん膨らんでいってるの。


「ねぇ彗くん」


喜んで食べていたプリンに嫌悪感を抱いたり、どうしてポケットに入ってたのかわからなかったミントガムを躊躇なく口に入れたり、まるで全くの別人のように見せた。


それって演技なの?


「…じゃないか」


違うよね。

だってそんなの演技したって意味ないもん。

そんなこと私に見せたって何の意味もないもんね。

それにそんなこと本能では変えられないよ。


立ち上がった彗くんが私の方を見た。

目を合わせる。


その鋭い視線、2回目だね。



「ねぇ、あたなは誰なの?」
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