パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「いないっ!!?」

人がうじゃうじゃの夏祭り、全然どこにいるのかわからなかった。

え、さっきまでいたよね!?
後ろにいたよね!?

キョロキョロしてみても背伸びして遠くを見ても、私の身長じゃ埋もれちゃって何もわからなくて…

しまった、どこ行っちゃったの…!?

わーーーーーーー…

「…やば」

見失っちゃった…

“俺から離れるなよ”

秒で有言実行するとは思わないじゃん…!

さ、探そう!!

花火が始まるまであと少し、それまでに見付けないと会うのが難しくなっちゃうよね!?

また人が増えたら動けなくもなるし、そしたら会えないままかもしれないし…

早く…っ!!

えっと電話!
電話して今どこにいるのか聞こう!

巾着の中からスマホを取り出そうと思ってごそごそ探した。

ちっちゃな巾着にはスマホとお財布ぐらいしか入ってなかったけど、紐できゅって縛ってある袋に慣れてなくて開くのにもたついちゃった。

それに慣れてない下駄だったから。


―ドンッ 


下を向いていたせいで気付かなかった。

ぶつかった衝撃で体がフラついて。

「あ、すみませ…っ」

取り出したスマホが手から離れて地面に落ちた。

「あ、小村さん」

「柏木先輩…っ」

顔を上げたら柏木先輩がいた。

さっきぶつかったのは柏木先輩だったんだ…

「ごめんね、大丈夫だった?」

「あ、いえ…っ」

周りには女の子に男の子に何人もいて“人気者”の柏木先輩だった。

「星どした?何、ナンパ?」

ナンパ!!?

柏木先輩のお友達さまなんてことを…!

余計なこと言わないでほしい!

「ナンパなんかしてないよ」

落ちたスマホを拾ってササッと汚れを払って、はいっと私の前に差し出した。

「弟の彼女ナンパするわけないよね」

にこりと笑って、…この柏木先輩は表の柏木先輩だ。
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