「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。
「ああ、弟のクルレイドとエルライド侯爵家のレミアナ嬢です」
「これはどうも。私はマルセアと申します。以後、お見知りおきを」

 マルセアと名乗る女性は、私達に対して深々と頭を下げてきた。
 彼女が何者であるのか、未だによくわからない。そのため、私もクルレイド様も困惑してしまう。

「……」

 そこで私は、牢屋の中にいるランカーソン伯爵夫人が固まっていると気付いた。
 彼女はその目を丸くして、マルセアさんを見ている。それは明らかに、知り合いを見る目だ。
 それも二人が、かなり深い関係でなければできない目をしている。それが親しい関係か憎み合っているかはわからないが。

「……なんだい、その顔は? かつての上司に対して、その顔はないだろう」
「マルセア、さん……どうして、あなたがここに……?」
「聞こえてなかったのかい、ギルドルア殿下に呼ばれたんだよ」

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