「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。
 マルセアさんは、懐から煙管を取り出した。
 それを咥えた所で、彼女は私達の方に目を向ける。そしてその煙管を再び懐に戻す。

「失礼しました。つい昔の癖で……私もまだまだ未熟ですね」
「いいえ、お気になさらないでください。それよりも、あなたは一体何者なのですか?」
「……まあ、お二人もそれなりの年ですから、お伝えしてもよろしいでしょうか。私は娼婦でございます」
「娼婦……?」

 マルセアさんの言葉に、私とクルレイド様は顔を見合わせた。
 彼女の言った職業に、疑問を覚えていたからだ。
 その職種が、どういうものであるかは理解している。だが、その職業とランカーソン伯爵夫人が結びつかないのだ。

「兄上、正直言って理解できません。マルセアさんと夫人にはどのような関わりがあるのです」
「簡単なことだ。夫人はかつて、彼女の元で働いていた。元々彼女は、娼婦だったのだ」
「……なんですって?」

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