「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。
 クルレイド様は、ランカーソン伯爵夫人を睨みつけていた。
 その口調も、心なしか荒々しい。明らかに敵意を向けているといった感じだ。
 それに私は、少しだけ驚いていた。まさかクルレイド様が、そんなに怒っているとは思っていなかったからだ。

「心臓の音がしますね」
「あなたが一体何をしたいのか、俺には理解することができない。そもそもの話、ここでこんなことをしてただで済むと思っているのか?」
「ふふ……」

 クルレイド様の言葉に対して、夫人は笑みを浮かべていた。
 先程と変わらず余裕そうな態度である。ただクルレイド様が言う通り、確かに彼女は危うい状況だ。
 アルペリオ兄様と二人で出掛けている。その事実は彼女を追い詰めるだろう。単純に浮気である訳だし、その不貞行為を糾弾されるはずだ。

「お若いですね、クルレイド王子。本当に可愛らしくて、笑ってしまいます」
「何がおかしいというのだ?」
< 40 / 269 >

この作品をシェア

pagetop