ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
「ピィィ!」
王都近くにある森に辿り着き、少し進んだところに目標の魔物が潜んでいた。
赤い体毛と漆黒の角、成人男性を上回る巨躯が特徴的な鹿型の魔物――炎鹿。
人間を見つけると積極的に襲いかかって来て、魔力で生成した火炎を黒角に宿して攻撃をしてくる。
その火はかなりの高熱を帯びているけど、炎鹿の角は耐久耐と耐熱性に優れていて、長時間火炎を纏っていてもまるで問題がないのだ。
ゆえにその炎鹿の角は、武器の素材や錬成の素材などで重宝されている。
「ピィ!」
薄暗い森の中で炎鹿と対峙していると、奴は地面を引っ掻いて突進の構えをとった。
地面を掻く度に、ボッボッと黒角に火柱が立ち、やがて迸るように火炎が立ち上る。
それを合図にするように、炎鹿が地面を蹴飛ばしてこちらに飛びかかって来た。
「――っ!」
私は鋭く息を吐きながら、右横に飛んで炎鹿の突進を回避する。
強烈な熱気が真横を通り過ぎて行くのを左頬に感じながら、私は後ろを振り返りつつ左手を構えた。
「【渦巻く水流――不快な穢れを――洗い流せ】――【水流】!」
瞬間、左の手の平に魔法陣が展開されて、そこから勢いよく大量の水が放たれた。
鹿を目掛けて放たれたそれは、角に宿っていた炎を消し去り、ついでに魔物の巨体を奥へ吹き飛ばしてくれる。
水属性魔法――【水流】。
これで熱気に邪魔されずに近づけるようになった。
私は奴の体勢が整えられる前に素早く肉薄し、懐のナイフを右手で抜きながらひと突きする。
「ピィィ!」
赤い体毛を貫いて胸のやや下に刃が食い込むと、そこから鮮血が溢れて私の茶色の髪を赤く染めてきた。