ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜

「遅い! いったい何をしていたのだ!」

「す、すみません……」

 素材採取から戻って来ると、さっそくババロアから怒鳴り声を頂戴した。
 アトリエを出てから六時間での帰還。
 言うほど遅くはないと思うんだけど、ババロアはどうも気に食わなかったらしい。

「素材がなければ錬成術ができず、アトリエ全体の作業が止まることになるんだぞ! 素材採取係として相応の責任感を持てこの鈍間が!」

「は、はい……」

 周りを見ると、他の職人さんや徒弟たちは、こちらと目を合わせようとせずに作業場の片付けをしている。
 ここでババロアに意見できる人は他にいないし、下手に助け舟を出せば今度はその人が攻撃されることになる。
 だから誰も何も言わずに、隠れるようにして身を縮こまらせていた。

「それと、『溶液(スライム)の粘液』はどうした?」

「えっ? な、なんのことで……」

「言ったはずだぞ、明日の錬成依頼に使用する予定なので、二十体分の粘液を取って来いとな」

「……」

 ……言われてない。
 そんな指示を受けた覚えは一切ない。
 いくら寝不足だからと言って、ババロアの指示を聞き逃すような失敗はしないはずだ。
 前にも何度かこういうことがあった。指示されていないはずのことを後から言われて、聞いていないと返したら怒鳴り散らかされるということが。
 だからまた『言われてない』と返しても、怒鳴られるだけに違いない。

「す、すみません、忘れていました」

「……なんだと?」

「き、聞き逃していたのかも、しれません。申し訳ございません、ババロア様」

 頭を下げて謝るが、ババロアの方から怒りの熱気が迸るのを感じる。
 恐る恐る顔を上げると、やはり彼は険しい表情でこちらを見下ろしていた。
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